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87話 俺たちは落人狩りの恐怖を味わった

ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。

通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。


転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?

優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。


「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」

ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!


トラさんが戸口へ出ていった。

「……なんの用だ」


「俺たちは平家の落人狩りをしている! この屋形に残党はいないか!」


――心臓が跳ねる。

落人狩り!? よりによってこんな真夜中に!?


俺とハヤテは、板戸の隙間からそっとのぞいた。


「平家の残党? そんな者はおらぬ」

トラさんの声は低く冷静。

「こちらにおわすは、鎌倉の源頼朝公から直々に任ぜられた地頭さま。夜更けに狼藉ろうぜきとは無礼であろう」


一瞬の沈黙――。

次の瞬間、ガラガラと耳障りな笑い声が響く。


「おお、そうであったか! それなら安心。わしらも源氏のお仲間よ」


声の主は二人組だった。


戸口をくぐったのは、大柄で真っ黒に日焼けし、肩に長槍を担いだ男。

隣には、猫背で細身、目をぎらつかせてニタニタ笑う若い男。


大柄の男が、槍の石突いしづき(柄の下に付いた金具)をどすんと床に突き立てた。

「俺は小十郎。俺の殿も源氏に仕える者だ。落人狩りを任されておる。まあ、こちらも源氏なら、平家のクズを散々斬ってきたのであろう?」


トラさんが短く答える。

「……まあ、そういうことだ」


小十郎は太い腕で槍を揺すり、声を張った。

「殿の言葉じゃ。平家の残党を生かせば、また集まり源氏に刃向かう。だから草の根かき分けても、平家の“へ”の字のつくものは皆殺しよ! がっはっは!」


隣の細身の男が、いやらしい笑みを浮かべて口を開く。

「へへっ、次郎と申します。兄貴分の小十郎様と一緒に、平家のクズを狩って歩いてるんでさ」


小十郎が言い放つ。

「まあ安心せい。わしらは同じ源氏の味方。今宵は宿を借りに来ただけよ」


次郎が舌なめずりをして付け加える。

「できれば、酒と肴も一緒に、ねぇ?」


小十郎は再び石突をゴンと戸口に突き立てた。

「実は一夜の宿をお願いしたい。この屋敷はもとは我ら役人の宿舎よ。俺たちが落人狩りの役目で通る時は、宿を貸してもらうぞ」


次郎がへらへら笑う。

「兄貴、宿だけじゃなく酒も欲しいですなァ。地頭様のお力で、ちょいと出してもらえましょう?」


――血の気が引いた。

落人狩りと同じ屋根の下!?

もし気づかれたら……俺もハヤテも首が飛ぶ。


「よかろう。入るがいい」

親父さん――秀通ひでみちが姿を見せた。

わずかに眉をひそめつつも、静かにうなずいた。


俺は慌ててハヤテと雁丸をつつき、じいさまの部屋へ逃げ込む。

「よしよし、夜の便所には付き合ってくれよ」

じいさまはおどけた声で俺たちを迎え入れてくれた。


広間では、小十郎と次郎のガラガラとした笑い声が響いている。

まるで親父さんが、自分たちと同じく平家の人々をを殺してきたと決めつけるかのように。

親父さんも用心深く話を合わせているのがわかった。


――こうして、青景での最初の夜は、不安と緊張に包まれて更けていった。







まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。

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