82話 身なりを整えた俺たちは、青景に向かう
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
道を尋ねると、村の老人がゆっくりと答えてくれた。
「ああ、青景はな、そこを左に行きます。しばらくすると山が迫った細道……それを抜けると小川があります。木の橋がかかっとりますから、そこを渡れば青景の里じゃ」
俺たちは真剣に聞いた。
老人はさらに続けた。
「ずっと行けば山の上に館が建っとります。あそこは殿さまの館じゃった。源平合戦では平家の味方をされたんで、今は行方知れず……」
俺はハッとした。
殿様が平家方だった?
つまり、この村も……。
「戦に駆り出された村人も多くてのう。
行方のわからん者ばかりじゃ。
もう、許されてもええのではないかと、わしは思いますけどねえ。
鎌倉の頼朝さまは、どうお考えか」
老人は遠い目をしていた。
そこに、ぽつりと別の村人が口を挟む。
「そうそう、義経どのを捕らえたら褒美が出るそうですな」
……え。
もう、この辺りにまで噂が広がってるのか。
俺の背筋に冷たいものが走った。
「地頭さま? おらが捕らえたら、鎌倉へ行って褒美をもらってきてくださいよ」
茶化すように言った村人に、俺は苦笑いしかできなかった。
でも……思った。
この青景、働き手は残っているんだろうか。
村として成り立つのか?
沈黙が続いたその時。
「では、わしが行こう」
トラさんが静かに言った。
分厚い虎の毛皮を肩にかけると、まるで本物の虎が歩き出すような迫力だ。
「村人に声をかけてくる」
そう言うなり、地を蹴って駆け出した。
――速い。
虎の名は伊達じゃない。
「やっぱすげえな、あの人」
その間、トラさんの荷物は馬に預けてあった。
重荷に耐えている馬の息が荒い。
「あと少しだ、がんばれよ」
俺は馬の首をぽんと叩いた。
「よしよし、もうすぐ休めるからな」
ハヤテが馬の鼻面を撫でてやる。
馬は安心したようにぶるると鼻を鳴らした。
石が建っている。文字が彫られている。
「青……景? あおかげって書いてある!」
俺が駆け寄って一里塚を見上げると、皆がどっと歓声をあげた。
「おお!」
「ついに着いたぞ!」
じいさまも足を引きずりながら来て、碑を撫でる。
「おお……確かに青景じゃ」
ハヤテもようやく笑った。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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