81話 俺たちは白糸の滝で水分補給そして着替えた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
白糸の滝についた。
ざあざあと落ちる水の糸は、まるで天から垂らされた白い糸のようにきらめいていた。
馬も美味しそうに水を飲んでいる。
俺は手を伸ばして、その冷たい水をすくった。
ごくり。
「うめえ!」
喉から胸にかけて、ひんやりした感じが流れ込んでいく。
料理屋はもう、ちゃっちゃと雑炊を作り始めている。
「早っ! さすがだな」
立ち上る湯気と香りに、腹がぐうと鳴る。
みんなで一口食べたら、あっという間に笑顔になった。
「やっぱ温かい飯は力になるな!」
腹を満たしたあとは、着替えの時間だ。
俺は、正直これが一番苦手。
御所にいたころは女官に任せっきりだったから、自分で衣装を整えるのなんて慣れてない。
帯がねじれて「あれ、逆? どこ通すんだ?」と大苦戦。
一方、大人たちはきりっと着替え終わっていた。
大人は頭に烏帽子を載せ、凛とした姿。
俺たち若い衆は地味で動きやすい装束。
すると、俺の肩に黒い影がひょいと飛び乗った。
袂を叩いたらしい。
「ミャア」
「クロエ?」
黒猫クロエがすました顔で毛繕いをし、尻尾で俺の頬をくすぐる。
クロエが言った。
「それが烏帽子。地頭のしるし。布の質や形で身分が分かれるニャ」
「そうなのか」
山中さんが、驚く。
「黒猫もいるのか!」
「ミャーン」
とぼけるように鳴くクロエが、なんだか可愛い。
全員が身支度を終えた。
もちろん、髪も整えられて、見違えるように立派な一行となった。
「よし、列を整えよ!」
親父さんが声を張る。
俺は思いついた。
「地頭なら馬に乗るべきじゃないの}
皆も一斉に目を向けたが、親父さんは首を振った。
「いやいや、そこまでせんでよい。一緒に歩くぞ!」
馬には荷物が括り付けられた。
水を飲んだ馬は元気いっぱいだ。
歩きたくて足踏みしている。
先頭に立った親父さんの横で、山中さんも辛そうな足を引きずりながら、それでも真っすぐ歩いている。
じい様も同じ。
二人の背中は痛々しいけれど、少し前の姿を思うと、別人のように生き生きしている。
俺には先ほどより背中の荷物が軽く思えた。
「……行こう。青景へ」
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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