80話 俺たちは歩きながら大切な話をした
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
翌朝。俺たちは夜明けとともに出発した。
親父さんが口を開く。
「今日中には青景に着きたい」
じいさまがうなずく。
「青景入りする前に、一張羅に着替えよ。秀通は立派な烏帽子をかぶり、年長者も皆、烏帽子をかぶり正装するのじゃ。新しい地頭として尊敬を得ねばならぬ」
九郎が涙ぐむ
「じいさまが、こんなにお元気になられた……」
「え、烏帽子……俺の分は……ないですよね?」
山中が申し訳なさそうに言うと、じいさまは微笑んだ。
「ちゃんと予備を用意してあるぞ」
「……!」
(え、用意してあったんだ!?)
じいさまは続ける。
「以前の郡司は平家方の者であった。戦に行ったはずだ。平家方なら捕らわれたはず。……もしかしたら、村に隠れているかもしれん。まあ、仲良くやることが大事だ」
そこで、じいさまは声を落とした。
「本来なら、秀通の妻も村に入り、未来永劫この地に根を下ろす意思を見せるのがよい。だが……昨年、出産の折に亡くなった」
その場に静寂が落ちる。
じいさまは俺を見据えた。
「それでだ。相談なのだが……安介を、秀通の養子に迎えるのはどうかと思う」
「……え?」
「ええっ!?」
「ええええええっ!!」
三段活用で俺の驚きが爆発した。
親父さんは即答した。
「それは良い考えだ」
(早っ!!)
「もちろん、今後どうなるかはわからぬ。その時はまた考えればよい。どうだ、安介」
「え……えっと……」
ハヤテがにやにやしながら肩を組んできた。
「おお、いいじゃねえか! 俺は学友な! 一緒に学問と剣を学ぶ仲間だぜ!」
「……いやあ、学友って……」
雁丸はきりっとして言う。
「私は剣の指南役を拝命した身。もともと知盛さまにお仕えしていた。安介殿、安心して稽古を受けられよ」
「……えぇぇ……」
なんか急に立場が変わっちゃったんですけど!?
横で山中がくすりと笑う。
「安介さま……跡取りのいる地頭ということで、民は安心しましょう」
「ははは……うーん……。今まで通り安介って呼んでほしい。身内では……俺は頭をかきながら、妙に落ち着かない気持ちでいた。
――こうして、俺は親父さんの養子ということになった。
「平家の再興は? できないの」
「それは……」
じいさまが言った。
「時が来たら、その時に全てを明かすことになろう。
平家の再興を望むなら、全力で力になる」
胸の奥に、不安と希望が同時に渦巻いていた。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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