79話 俺たちの仲間、平家の落人は感激した
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
舟を手放し、馬を得た俺たちは、ときに荷を背負い、ときにじい様を負ぶいながら、休み休み歩いた。
そして夕方。長門の国の役所がある町にたどり着いた。
「さて、今夜の宿は……」
トラさんが地元の民に声をかけると、少し内陸に温泉と宿屋があると教えてくれた。
馬を進め、俺たちはその温泉宿に入った。
料理屋はさっそくかまどを借りて火を起こす。
サザエを焼くといい匂いが広がった。
大鍋ではワカメとアワビの雑炊。
大根や青菜の漬物まで買い揃えた。
「うまそう……」
ハヤテが目を輝かせる。だが次の瞬間――。
「サザエが……ねぇ!」
気づけば、焼いていたサザエが影も形もない。
「ちくしょう、盗まれた……!」
ハヤテが地団駄を踏む。
盗人は人に紛れてもうわからない。
荷物はちゃんと見ていないといけない。
ここは浦安の屋形のような知人ばかりの場所ではないのだ。
「いい薬になった。あれくらいの被害でよかったよ」
「交代で荷物番をしよう」
俺たちは、荷物をいつでも目の端に入れるようにした。
雑炊は絶品だった。
湯気を吹きながら口に運ぶと、潮の香りと貝の旨味が腹にしみる。
「……うまい……」
山中(景清)が、ぽろぽろ涙をこぼしながらすすっていた。
「こんな美味いもの……ありがたい……」
痩せ細った彼が泣きながら食べる姿は、俺もどうもたまらない。
蛇島での日々を思うと、抱きしめたくなる。
食後、みんなで荷を宿に運び込み、盗まれないよう交代で見張りながら順番に風呂へ。
雁丸が荷物番をしていたが、刀を膝に据えたその姿は近寄りがたいほどのオーラを放っていた。
(あれじゃ誰も盗みに来れねぇな……)
俺とハヤテは馬の世話をする。
「水は足りてるか? よしよし……」
藁を撫でてやると、隣の客が笑った。
「坊主、そんなじゃ馬は喜ばねぇ。尻から頭に向かって輪を描くように撫でてやれ」
「こうか?」
「そうそう、仕上げに毛並みを整えてやれば完璧だ」
「へぇ~」
ハヤテはすっかり夢中になり、馬に話しかけ始めた。
「なぁ、藁がいいか? 干し草か?」
(……こいつは馬とも友だちになれるんだな)
風呂から戻ってきた山中は、まるで別人だった。
誰もが息をのんだ。
「……」
髪も髭も剃り落とし、痩せてはいるが、そこにいたのは紛れもなく、武将景清その人だった。
湯舟は広く、熱かった。
「ひゃっほー!」
ハヤテは子どものように泳ぎ回り、雁丸は珍しく腑抜けた顔で湯につかっていた。
九郎も現れ、笑みを浮かべる。
「山中さんを洗ってたからな。今度は自分の番だ」
湯けむりの中、笑顔と安らぎがあった。
戦と逃亡に追われた日々の中で、ようやく訪れた安息の時間だった。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
ブックマークしていただけると、とても励みになります!
リアクションやコメントも大歓迎。
感想をいただけたら本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!