78話 俺たちに新しい仲間が加わった
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
「……ねえ、その怪我人に会える?」
俺は耐えきれず海女に聞いた。
海女たちは顔を見合わせ、ひそひそ相談する。
「いやぁ、あんたら源氏のお方じゃろ。殺すか捕らえるか、するんじゃないんか?」
(……やっぱり警戒されてる)
そこで、じいさまが口を開いた。
「会いたい。もしわしらが源氏と名乗るなら、捕らえると言えばよい。殺しはせん。しかるべきところで……きちんと弔う、とでも伝えてくれ」
そのとき、親父さんたちが油谷の浦長を連れて戻ってきた。
「馬だ!」
トラが歓声を上げ、舟をぽんと叩く。
「よかろう!」
可愛い栗毛の雌馬だ。
さっそく荷物を背負わせ、残りは俺たちが分担する。
トラがじいさまを背負う。
俺たちは海女からサザエやアワビ、ワカメを買い込んだ。
「……馬の名前、どうする?」
ハヤテがにやにや笑う。
「俺は“つよし”がいい」
「ダサっ!」
雁丸が即ツッコミ。
そんなやり取りをしながら、山の中を進んだ。
左右に太い木がそびえている。
馬は心地よい足音を立てる。
「そこのご一行……待ってくれ!」
後ろから海女が走ってきた。息を切らしながら言う。
「さっきの怪我人……あなたたちのことを話したら、
『行きたい』と。
……うちら、もう行き倒れを弔うのは嫌なんです。
どうか……連れて行ってやってください」
俺たちが振り返ると、木の枝につかまりながら歩いてくる痩せた影があった。
頬はこけ、目だけがぎょろりと突き出ている。
「……九カ月、ひとりで……」
じいさまが呟く。
男は膝を折り、かすれ声で言った。
「名もなき怪我人でございます。どうか、殿のお供をさせてください。山道は知っております」
その顔を見た瞬間、心臓が跳ねた。
見覚えがある。この顔……確かに見た
男の方も俺を見て、驚きに目を見開いた。
「おお……あなた様は……!」
「言うな!」
俺はあわてて制す。
「はっ……」
俺が安徳天皇であることを知るのは、今のところじいさま、雁丸、ハヤテだけだ。
他の皆には知られてはいけない。
口を開こうとしたとき、男が先に遮った。
「名は捨てました。どうか……殿、わたくしめに、。……名をつけてください」
親父さんがうなずく。
「ならば今日から山中。
山の中で出会ったからな。
供をするなら一緒に来るが良い」
「ははっ……! 全力で殿をお守りいたす」
ボロボロの身体で、山中は笑った。
――いや、一番ふらついてるのに「守る」とか言うなよ!
でも、不思議と明るい気持ちになった。
希望は元気を呼ぶ。
じいさまがトラの背から降りた。
「わしも歩こう。
……山中、……供をしてくれ」」
自分より弱い者を助けたいという気持ちも……元気を呼ぶ。
じいさまが、あのじいさまが歩くというのだ。
九郎が感激して爽やかな笑みをうかべる。
「じいさま……!」
「隊列を組もうよ」
九郎が言う。
先頭はトラ。
続いて料理屋と九郎。
真ん中に親父さんと六さん。
その後ろにじいさまと山中さん。
馬を引く源さんとハヤテ。
しんがりは俺と雁丸。
気づけば十一人の道中になっていた。
互いの素性なんて関係ない。
これから共にどう生きるか、それだけだ。
「で、馬の名前は?」
「“梅干し号”とかどうだ? 花鈴を思い出せるぞ」
「やめろ!」
笑い声が山の中をわたっていく。
俺たちは進んでいった。
あの見覚えのある顔は
……屋島で活躍した平家のヒーロー悪七兵衛・平景清か。
いや、他の武将だったか。
だいたい、屋島でも壇ノ浦でも武士たちとの接触は少なかった。
見覚えがある……それだけだ
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
ブックマークしていただけると、とても励みになります!
リアクションやコメントも大歓迎。
感想をいただけたら本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!