73話 それぞれの旅立ち
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
これからどう生きるか
それぞれが、親父さんやじい様に伝えたようだ。
故郷に帰る者たちが、出発する時になった。
「……俺たち、これで一度、家に戻る」
上利左近が振り返り、低い声で言った。
日焼けした顔はいつも通り落ち着いているようだ。
でもよく見ると、表情にまだ迷いが見える。
早川勘兵衛は、言葉少なに拳を握る。
「母が病で倒れてな……九カ月、顔を見ていない。どうしているか……」
嘘のつけないやつだから、その焦りは丸出しだった。
杉山甚四郎が胸を叩き、溜息をつく。
「おれもだ。嫁がもう腹ん中に子を抱えてる。産まれてるか、産まれてねぇか……」
普段は「腹が減った!」ばかりの豪快な男なのに、今日は別の意味で腹を気にしている。
「兄さん……兄さんは……?」
和田八郎の声は震えていた。十六の顔には、まだ子どもの影が色濃く残っている。
その兄・六郎は我らが六さんだ。平家方のじい様の家臣、六さんが生きていることを広めてはいけない。八郎《《だけ》》が、《《父母にだけ》》伝えるのだ。
沈黙
家族への想い、秀道への忠誠心。
みんな苦しんでいる。
戦さえなければ、村は分断せず、今も協力して漁をしていただろう。
「……いいか」
秀通、……つまり親父さんが、皆を見回し低く言った。
「平家に縁ある家の者たち、困っていたら助けてやれ。だが、生きてるとも死んだとも言うな」
それと、
「わしの妻には……地頭になったと伝えてくれ。その後のことは、妻に任せよ」
皆がうなずいた。
そんな中、一歩前に出た男がいた。
藤巻寅之助――通称「トラ」。虎柄の布を腰に巻き、鋭い眼光をこちらに向けてくる。
「俺は行くぜ。殿の家臣として、最後までお供する。任せてくれ」
その声は、雷のように響いた。
浦長が懐から何かを取り出した。
「これは宋との貿易で得た品だ。……虎の毛皮じゃ。お前にこそ相応しい」
「おおっ!」
トラが目を見開く。毛皮を肩に掛けると、その姿はまるで本物の虎のように猛々《たけだけ》しかった。
「親父様とじい様を、このトラが守る! 命に代えてもな!」
俺はトラを見て、安心した。
――残る者、去る者。
だが、みんなの心は繋がっている。
そこに、お花ちゃんとお鈴ちゃんが駆け寄り、涙声で叫んだ。
「行かないで……!」
「寂しいよ……!」
ハヤテが言った。
「またいつか帰ってくるよ。彦島はおいらの生まれ育ったところだからな。そのときは、また梅干しのおにぎり、作ってくれよ」
みんなが笑った。
トラが虎の毛皮をはためかせ、鋭い視線で遠い海を見つめていた。
――ここからが、新しい旅の始まりだ。
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