71話 俺たちは地頭に任命された親父さんの話を聞いた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
「なっ……義経様を!?」
ざわめきが広がる。
「壇ノ浦で共に戦った義経様……そのお方を謀反人と呼ばれた」
「さらに頼朝様は、全国に守護・地頭を置くと告げられた。
地頭の務めは、領地を守り、義経を探し捕らえること。
『秀通、お前は忠義な男だ。義経を捕らえよ。お前を長門の国・青景の里の地頭とする』――そう仰せつかった」
親父さんは懐から巻紙を取り出し、恭しく掲げた。
「これが、その文書だ。頼朝様の花押がある。褒美も賜った」
巻紙が広げられると、土間に重い沈黙が落ちた。
火鉢の炭がぱちりと弾ける音だけが響く。
源氏の家臣たち――杉山さんも、立花さんも、トラさんも、じっと黙っていた。
(家に帰りたい……)
その思いが、土間の空気ににじみ出ていた。
父母の顔をもう一度見たい。
嫁の笑顔を見たい。
子どもの成長を抱きしめたい。
彼らの心は、その一点に尽きていた。
そして、代々過ごしてきた土地。
田を耕し、畑に苗を植え、海に出て網を投げる――
それが彼らの本来の暮らしであり、誇りでもあった。
見知らぬ土地に行くか。
それとも、帰りを待つ家族のもとに戻るか。
それぞれの胸の内で、答えの出ぬ問いが渦巻いている。
「……」
誰も口を開かない。
ただ、火鉢の炎がゆらゆらと揺れていた。
「さあ、相談だ」
親父さんは皆を見渡した。
「わしと父上は、青景の里へ参る。
父上にはまず湯に浸かっていただこう。途中で温泉に寄るつもりだ」
そして真っ直ぐに言い切った。
「わしについて来る者はおるか?
家に帰り、漁師に戻ってもよいのだぞ。
新しい地では、どんな苦労が待つかわからぬ。
一晩よく考え、明日までに答えてほしい」
「はっ!」
家臣たちは一斉に頭を垂れた。
やがて輪が二つできた。
鎌倉から戻った親父さんを囲む輪。
そして、じい様を囲む平家の捕虜組の輪。
雁丸とハヤテと俺は、その輪から離れ、屋形の外へ出た。
北風が頬を撫でる。
「……どうする?」
俺が問いかける。
「浦長のもとで漁師になるか」
「それとも、親父さんと青景へ行くか」
三人はしばし黙り込み、空を仰いだ。
――答えは、明日出す。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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