69話 俺たちは体も心も傷ついたあの方を迎える
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
「赦免――」
役人の口から「赦免」許された……と告げられたその時だった。
囲い場の奥から、ごそりと足音が近づいてきた。
じい様だ。
ぼろ布をまとい、髪もひげも伸び放題。
その顔は傷だらけで、片目には開いていない。
だけど、背筋はしゃんと伸びている。
足取りも、海で鍛えた男のそれだ。
「……父上!」
親父さんが思わず声を張り上げた。
だが、俺たちは、その姿を見つめながらも――動けなかった。
九郎も、源さんも。
もしここで捕虜と抱き合ったら、すぐに捕らえられる。
変装していても、俺たちは追われる身だ。
「じい様……」
――俺は飲み込む。
親父さんが代わりに進み出て、じい様に深々と頭を下げた。
「沙汰が下りました……どうか、今は舟に」
じい様は無言でうなずいた。
その目の奥に、確かに涙が宿っていた。
唇は震えていた。
俺は鯛汁をよそい、そっとじい様に差し出した。
「……あたたけえ」
じい様が小さくつぶやき、汁を口にする。
その一言で、胸の奥にあった緊張がじわりと溶けていった。
笑いも歓声もない。
ただ、静かに椀を持ち、肩を並べて飲む。
「美味いな」
「うん……最高だ」
それだけで十分だった。
舟に戻るとき、俺たちは自然とお互いを支え合った。
舟が岸を離れ、波がゆっくりと亀山様を遠ざけていく。
沖に出た――
九郎が耐え切れず、じい様の手を握った。
「……じい様ぁ……!」
源さんも、手で顔を覆いながら肩を震わせている。
「よしよし……」
じい様は、舟の上で俺たちを大きな腕に抱き寄せた。
声をあげて泣くことも、笑うことも、ようやく許された。
鯛汁の香りと涙の味が混じった。
――じい様の長い捕虜生活がどんなに辛かったことか
「安介ニャ、源平の戦で捕らえられた者は《囲い場》って呼ばれる板塀で囲んだ場所に押し込められたんだニャ。
食べ物は薄い粥や雑穀だけ。雨風をしのぐ小屋もろくになく、病や怪我で命を落とす者も多かったニャ。
身分の高い者は人質にされたり、恩赦を受けることもあったけど、雑兵は重労働に使われたり、処刑されることもあったんだニャ。
女や子どもが捕らえられると、奉公や労役に回されることもあったニャ。
つまり生き残っても未来は見えない――それが捕虜囲いの現実だったニャ。
捕虜の命運は、鎌倉幕府の意向次第ニャ。
有力者は恩赦や人質交換で助かることもあったが、多くは奴隷的に使役されたり、斬罪に処されたりしたニャ。脱走の記録が残っているニャ」
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