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68話 俺たちは待った。辛抱強く待った

ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。

2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。


~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~

役人たちの議論は長かった。

花押の線の強さ、紙の繊維、文言の定型……その一つ一つを吟味するたびに、俺たちの心臓は縮んだり跳ねたりを繰り返した。


やがて、一人の役人が書類を胸に抱き、深くうなずいた。

「……まことと認める」


その声が響いた瞬間、空気がぱんっとはじけたように感じた。


「赦免の沙汰、確かに頼朝公の御意に基づくものなり」

「異存なし」

「異存なし」


他の役人たちも次々にうなずく。


俺は思わず雁丸の袖をつかんだ。

雁丸はこくりと無言で頷く。

短刀を握る手が、ようやく力を抜いたのがわかった。


役人が巻紙を畳み、親父さんの前に差し戻す。

「秀通殿。沙汰は確かに真である。お父上の命、赦されること、ここに証す」


……その言葉が耳に届いた瞬間。

九郎が膝をついて涙をこぼした。

源さんは拳を握りしめ、天を仰いだ。

ーーとうとうやった! 認められた!


親父さんは深々と地に頭をこすりつける。

「……かたじけない」

声が震えていた。


俺は、女装したまま炊き出しの椀をそっと差し出した。

「親父さん……鯛汁です。どうぞ」


親父さんが顔を上げ、わずかに笑った。


――命はつながった……。



●黒猫クロエの情報ノート●

黒猫クロエが俺の肩にちょこんと乗り、耳をぴくりと動かした。

「安介ニャ、女装ってのはただのふざけじゃないニャ。平安の末期にも、いろんな場で行われていたんだニャ」


「……女が着るものを男が着るのか? どういうわけで?」


クロエは尻尾をゆらゆら揺らしながら得意げに言った。

「まずは宮廷の遊びや芸能ニャ。舞や雅楽で女性役を演じるとき、男が女装して舞台に立ったんだニャ。女官や舞姫が足りないときの代わりでもあったニャ」


「なるほど……芝居のためか」


「それだけじゃないニャ。神事や呪術でも女装は行われたんだニャ。男が女の装束をまとうことで異界とつながると考えられたこともあったんだニャ」


俺は少し身を乗り出した。

「じゃあ戦の場では?」


クロエが鋭く目を細める。

「そこが肝心ニャ。源平の乱のころは、逃亡や潜入のために男が女装することもあったニャ。落人が尼僧に化けたり、童女に姿を変えて敵をすり抜けたり……女装は命を守る策にもなったんだニャ」


「……ただの遊びじゃなく、知恵として使われていたんだな」


クロエはひげをぴんと伸ばし、にやりと笑った。

「そういうことニャ。女装は笑いと同時に、時には生死を分ける切り札でもあったんだニャ」

まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。ブックマークお願いします。リアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!

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