67話 俺たちは文書の真偽が確かめられるのを待つ
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
役人は烏帽子を整え、書類を慎重に広げた。
紙を指でなぞりながら低くつぶやく。
「……紙は上質。鎌倉から出たものに相違ない」
別の役人が身を乗り出し、墨の濃さを覗き込む。
「だが、墨がまだ新しい気もするな……」
「いや、急ぎの沙汰ならこういうこともある。問題はここだ」
花押を指でなぞり、眉をひそめる。
「筆の勢いが弱い。頼朝公の花押にしては、線が痩せている」
三人目の役人が首を横に振った。
「しかし、文言の式は正しい。『赦免之状』の定型に寸分の違いもない」
「ふむ……ならば奉行人の署名と照らせ」
役人は書類を光に透かし、紙の繊維をじっと見た。
「繊維は正規の紙のものだ。これを偽造するのは難しい……」
「では、真か?」
「いや、まだ断じられぬ。筆跡を知る者に見せねばならん」
役人たちは書類を手から手へと回し、ひそひそ声で議論を続けた。
その間、親父さんは深く頭を下げたまま、石像のように動かない。
俺は女装の下で、汗が掌ににじむのを感じていた。
雁丸は短刀の柄にそっと指をかけている。
――頼む、どうか通ってくれ。じい様の命は、この紙一枚にかかっている。
黒猫クロエが、俺の膝の上にひょいと飛び乗った。
「安介ニャ、花押って知ってるかニャ?」
「いや……聞いたことはあるが、よくは知らない」
クロエは胸を張り、尻尾をゆらした。
「花押はな、武士や公家が書状の最後に入れる特別な署名ニャ。名前をそのまま書くんじゃなくて、字を崩して模様みたいにするんだニャ。頼朝公なら頼の字を崩して、自分だけの印にしたんだニャ」
「模様……サインのようなものか」
「そうニャ。今でいうサインやハンコみたいなもんニャ。だから花押が違えば偽物だとすぐにわかるし、逆に似せて描かれたらだまされることもあるんだニャ」
俺は思わず書状を握りしめた。
「つまり、花押を知っているかどうかが命運を分ける……そういうことか」
クロエはにやりと笑った。
「そうニャ。安介も花押の目利きになれば、敵の偽書にだまされることはないニャ」
ーー今は正式文書だと認められることを祈るのみ。
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