66話 俺たちは親父さんを迎えた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
「おい……マジでこれ着るのかよ……」
雁丸が顔を真っ赤にしてぶつぶつ言っている。
「仕方ねえだろ、平家の人間がいたほうがじい様は安心するんだ」
そう言いながら、俺も花ちゃん鈴ちゃんに着替えさせられていた。
「きゃー、かわいい! 安ちゃん!」
「こっちは、雁ちゃん!」
……安ちゃん? 雁ちゃん?
めっちゃ女子扱いされてるんですけど!?
雁丸は半泣きで「やめろーー!」と抵抗していたが、花ちゃん鈴ちゃんが楽しそうだから逃げられない。
(雁ちゃん、似合ってるぞ。多分な!)
だが、遊びじゃない。
俺たちの目的は――
美味い鯛汁を、親父さんに食べてもらうこと。
そして、じい様にも。
そのためなら、女装だってやるさ。
「……じい様の命を助ける……叶うのか……」
不安だ。
頼朝からの沙汰がどう出たのか。
「領地なんか要らない。ただ、平家方に味方した父の命を助けてください」
親父さんの必死の願いは、果たして聞き入れられたのか――。
源氏の家臣たちは三人とも、きちんと身なりを整えていた。
刀を差し、烏帽子をかぶり、凛と立つ。
「今回こそ、秀通様に帰っていただきたい」
そんな祈りを、全身から漂わせている。
一方の俺たち平家組は、じい様の助命を祈るばかり。
九郎なんて朝飯を断って、ひたすら神仏に手を合わせていた。
そして――出発。
俺たちは二艘の舟に分かれ、魚を抱え、炊き出しの準備を整えて亀山様のもとへ向かった。
「これ、鯛な。絶対に食べさせたいんだ」
親父さんに。じい様に。
願いを込めて舟を漕ぐ。
亀山様の港に舟が着く。
「親父さんか?」
「いや、旅人だ」
舟が着く。
「今度こそ、親父さんか?」
「いや、嫁入りの舟だ」
舟が着く――
「今度こそ、……親父さんか?」
「あれは……!
あれは、親父さんだ!!」
家臣たちが駆け出す。
舟の上から手を振っている。
そうだ、秀通様――俺たちの親父さんだ!
親父さんが上陸する。
俺は女装のまま炊き出しの汁をよそい、震える手で器を並べた。
雁丸は短刀を忍ばせ、周囲をにらんでいる。
すぐそばには源氏の役人。
その視線は鋭い。
親父さんは、役人と向き合った。
役人は書状を受け取り、別の役人のもとへ。
さらに回し読み。議論が始まる。
親父さんは深々と頭を下げた。
その姿は石のように動かない。
「……っ」
俺は思わず息を飲む。
ここで決まる――じい様の命が。
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