64話 俺たちは衣食住足りる喜びを全身で感じた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
浦長の屋形で一晩ぐっすり寝て、迎えた朝。
目の前にあるのは――
梅干しがどーんと見えるおにぎり!
いい匂いの魚汁!!
「……あああーーー、最高だっ!」
思わず声が漏れる。
白いご飯をかみしめるたびに、口の中から幸せがあふれてくる。
一口一口が喜びだ。飲み込むなんてもったいない。
もう少し、この味を口にとどめておきたい。
隣を見れば、ハヤテも雁丸も夢中で頬張っている。
三人とも顔がゆるみっぱなしだった。
そこへ、女衆頭が声をかけてきた。
「釜に湯を沸かしたよ。好きに使っとくれ。古い衣もあるから、よかったら使いな」
「……ってことは!」
俺たちは顔を見合わせた。
「行水できるーーーっ!!」
浦長の屋形の裏には水場があって、井戸の水を汲める。
たらいと桶を借りて、ザバッと湯をかぶる!
そこに湯を入れることができるんだ。
「うおおおおお! 気持ちいいいいいっ!」
寒さ? 知るか! そんなの気にならない。
顔も頭も体も洗って、すっきりサッパリ。
さらに、いただいた古い衣をまとえば――
「どこからどう見ても、浦長の若い衆だな」
九郎も髪を整えて凛々しい顔に。
源さんなんて、長く伸びた髭を剃って別人みたいに爽やかになっている。
「おお……みんなイケメン度が跳ね上がってるぞ」
思わず口に出したくらいだ。
そのとき――
「わー、いいじゃない?」
「ねえ、島の話聞かせて?」
ひょっこり現れたのは、お花ちゃんとお鈴ちゃん。
ハヤテが身を乗り出して胸を張る。
「おう、いいぞ! おいらたちの島にはな――島には……島には……」
ーーひと呼吸おいて、
「蛇がいたーー!!!!」
「きゃーーーー!!!」
お花ちゃんとお鈴ちゃんは顔を真っ赤にして、きゃあきゃあ言いながら逃げていった。
その逃げる後ろ姿がまた、可愛いんだこれが。
俺たちは腹を抱えて笑った。笑って笑って、涙が出るほど笑った。
そうだ……今ここには、
明日の食べ物の心配もない。
水の心配もない。
風や雨の心配もない。
落人狩りの舟が来る心配もない。
舟をなくして途方に暮れる心配もない。
――蛇に襲われる心配も、ない!!
衣食住がすべて満ち足りて。
俺たちの脳からは、幸せホルモン――エンドルフィンが溢れ出して止まらなかった。
「……生きててよかった」
多幸感に包まれて、俺たちは心の底からそう思ったのだった。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
ブックマークしていただけると、とても励みになります!
リアクションやコメントも大歓迎。
感想をいただけたら本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!