58話 「俺たちは舟の修理をした」
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
砂に乗り上げた舟は、傷だらけだった。
帆の下部は裂け、船体には物がぶつかった跡がいくつも残っている。
俺たちはしばし立ち尽くしたが、六さんが手を叩いて声をあげた。
「よし! 直せるうちに直すぞ!」
秀通様の家臣たち――地侍の四人は漁師なんだ。
彼らは当然のように漁師言葉を使いこなす。
「おい、アカを出せ!」
アカ。舟の中にたまった海水のことだ。
船尾には小さな排水穴があり、普段は栓をしている。
海上で走っているときに海水が入ってきたら、この栓を外せば良い。
走らせているうちに水が抜ける仕組みなんだ。
今は陸に上げているから、重力を借りて一気に水を吐き出させる。
雁丸が舳先を持ち上げ、俺とハヤテが必死に押さえる。
船底の板がゆがみ、穴から水が染み込みそうになっているのが見えた。
「ここ、穴だ……」
俺が指さすと、源さんがうなずく。
「木を削って詰めよう」
源さんは海辺の流木を拾い、刃物で素早く削り始めた。
九郎は縄を解いて裂き、繊維をねじって補強材を作る。
その二つを丁寧にかみ合わせ、穴を埋めていく。
「帆が……切れちまったな」
六さんが飛ばされなかった荷物を開けると、中から針と糸が出てきた。
「縫えば大丈夫だ」
六さんは裂けた帆を膝に広げ、ためらいなく針を動かす。
見事な手さばき。布がみるみる繕われていく。
――さすがだ。俺はその方法を見て覚えた。次は俺がやる。
その間にも、ハヤテが浜に散らばった“お宝”を集めてくる。
「まだ使える! どれも使えるぞ!」
木片、布切れ、縄の端……どれも貴重な資材だ。
皆の動きが速くなった。
割れた板の隙間を埋め、縄で締め付け、布を縫い合わせる。
手は擦り傷だらけ、指先は冷たい風で痺れていたが、不思議と誰も弱音を吐かなかった。
「……よし、これでどうだ」
六さんが舟の側面を叩くと、重々しい音が返ってきた。
頼りない軋みは、もうどこにもない。
雁丸がうなずき、にやりと笑う。
「まだ戦えるな、この舟は」
修理を終えた舟は、「元気になったぜ」というように堂々としていた。
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。ブックマークお願いします。リアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!