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57話 嵐の後の俺たちの燻製は……美味すぎる 

ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。

2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。


~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~


朝の空は、どんよりと曇っていた。

嵐の残した風がざわめき、木々の枝が折れた音を立てている。


俺たちは鳥居からふらつく足で立ち上がった。

「……見に行こう」

九郎の低い声に全員がうなずく。


小屋は見る影もなかった。壁も天井も吹き飛び、散らばった板切れが砂に埋もれている。


俺は拳を握りしめ、歯を食いしばった。

せっかく作った小屋なのに……。

こんな悔しいことって!



だが、浜に出た瞬間――


「……あった!」


ハヤテの叫びに振り向くと、砂浜の網に昨日の魚が残っていた。

潮にさらわれず、銀色の鱗がまだかすかに光っている。


「魚が……残ってる」

雁丸が目を見開いた。


さらにその先、波打ち際に視線を移すと、舟の影が見えた。

帆は裂けていたが、船体は砂に乗り上げたまま残っている。


「舟も……流されてねえ!」

源さんが息を吐き、膝から力が抜けたように笑った。


胸の奥が熱くなった。

全てを失ったと思っていた――けれど、俺たちはまだ生きている。

魚も舟も、生き延びてくれていた。


「……神様が、少しは見てくれたのかもな」

六さんがつぶやいた。


俺たちはただ黙ってうなずき合い、潮風を吸い込んだ。


残った魚を料理屋が吟味している。

「お前らも、……燻製、作ってみるか?」


「やるっ、やるやる!」

ハヤテがまとわりつく。

俺もついて行った。


料理屋は砂浜を踏みしめ、手際よく穴を掘りはじめた。

「いいか、燻製は火じゃなくて煙が命なんだ」


俺とハヤテはスコップ代わりの板で砂をかき出す。

じわじわ広がる穴の底に、赤い炭火が据えられた。

料理屋は濡らした流木を放り込む。



じゅわ、と湿った音がして、白い煙がもわもわと立ちのぼる。

その匂いは、焚き火の香ばしさだった。


みんなはワイワイ言いながら、昨日の魚のはらわたを出し、海水で洗っている。そして小枝に刺している。


「さあ、魚を並べろ」

料理屋が手を振った。

俺とハヤテは、串刺しの魚をきれいに並べた。

枝に刺さった銀色の魚体は、煙に包まれながら次第に銅色に変わっていく。


「おお……」

皆の口から声がもれる。

ただの魚が、魔法みたいに姿を変えていくのだ。


「焦るなよ」料理屋は指を立てた。

「燻製は待つのが肝心だ。急いだら、ただの焼き魚になる」


煙は風に押されては流れ、また穴から湧きあがる。

煙は目に染みる。鼻にもしみる。

俺たちは煙をよけながら待った。


ハヤテが小声で囁く。

「匂いだけで飯が食えそうだな……」

「やめろ、白い飯を思い出すだろ」


俺も思わず笑ってしまう。

ここでは米は貴重だ。

「料理屋は1日1人当たり米を50つぶしか使わないらしいよ」

九郎が爽やかに言った。


「料理屋と雁丸がぶつぶつ話していたので見に行くと

米粒を数えていたんだ」


「そうだ。毎日350粒を数えて朝粥にしている。

今朝は粥がなくて申し訳ないが、特別な日だから仕方ない」


雁丸はいつの間にか、副料理長になっていた。

器用な男なのだ。



やがて、料理屋が手を伸ばし、鰯を一尾引きあげた。

黄金色に染まり、脂がうっすら浮かんでいる。


「よし、出来上がりだ」


皆が歓声をあげる。

「いーい、香りだあ!」

香ばしい匂いが風にのって広がり、腹の虫がもうごまかせない。

九郎が串を差し出し、爽やかな笑みを浮かべた。

「ほら、安介、まずは一口いけ」

熱気と煙のなかで、串から外された一尾のいわしが俺の手に渡された。

黄金色に輝く皮は、パリッと張りつめ、うっすらと脂が浮いている。

鼻先をくすぐる香ばしい匂いに、思わずごくりと唾を飲みこんだ。


「さあ、かぶりつけ」

料理屋が顎でしゃくる。


俺は、まだ熱の残る身に恐る恐る歯を立てた。


――じゅわっ。


噛んだ瞬間、濃厚な旨みが舌に弾けた。

塩気は控えめなのに、魚そのものの甘みと、燻された香りが混ざり合う。

外は香ばしく、中はふっくら。

口いっぱいに広がる煙の余韻は、ただの焼き魚では絶対に味わえない。


「……う、うまーーーーーーっ!

こんな美味い物食べたことないよ」


どこからか元気が湧きあがってくる。


「だろ?」

九郎がニッと笑い、自分の串を爽やかにかぶりついた。

「料理屋の作る料理は最高なんだ!」


六さんもかぶせる。

「燻製ってのはな、ただの保存食じゃねえ。戦の合間でも、心を満たすご馳走なんだ。料理屋がいてくれて、俺たちは幸せだ」


ハヤテも夢中でかじりつき、目を丸くした。

「これ……何日も待てばもっと旨くなるのか?」

「そうだ。日が経つほど、香りが深くなる」

料理屋が胸を張る。


俺はもう一口頬張りながら、心の底で思った。

――こんなご馳走があるなら、冬だって乗り越えられる……かも。


海の風が燻煙をさらい、秋空へと運んでいった。

俺たちはしばし無言で魚にかじりつき、ただその旨さに酔いしれた。

「……うまっ!」


――こんな美味い物、食べたことない!

いわし燻製くんせい! ★5つ」


まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。ブックマークお願いします。リアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!

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