56話 俺たちは夜通し戦い朝を迎えた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
夜通し、風は吹き荒れた。
飛ばされた板を追いかけるのは諦め、俺たちは神社の鳥居に身を寄せるしかなかった。
膝を抱えて、背中に風を受けながら耐える。
雨が降らなかったのは、幸運だ。
もし雨が降っていたら……想像したくもない。
小屋の壁も、天井も、なけなしの私物も――すべて吹き飛んでしまった。
もう駄目だ。もうおしまいだ。
心の中で何度も叫んだ。
――風よ、やんでくれ。
――雨よ、降るな。
――火事だけは起きるな。
――舟が流されたら、生きられない。
口に出すことはなかったが、胸の奥で必死に祈っていた。
やがて朝方、風が弱まった。
俺は鳥居の下で膝を抱えたまま、いつの間にか眠っていた。
夢を見た。
台風の日、学校が休みになると連絡があった。
俺は飛び上がって喜んでいた。
母さんがお昼ご飯の心配をしている。
「カップ麺でいい?」
「いいよ!」
俺は最高に自由な気持ちでゲームをしていた。
だが、突然――家が飛ばされた。
壁も天井も、手に持っていたゲーム機も。
俺は暴風の中で叫んでいた。
風よ……やめ!やめやめやめやめやめーーーーーー!
はっと目を覚ます。
……夢か。
風の怖さを知った俺だからこそ、見た夢だった。
隣ではハヤテがまだ眠っている。
九郎がこちらを見て、指を口に当てた。
「しっ……」
六さんのいびきが響く。
九郎の口が静かに動いた。
「やっと寝たな」
声を出さなくても九郎はさわやかだ。
源さんが時々咳をする。
長い夜が、ようやく終わった。
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