54話 俺たちは笑った
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
舟が浜に引き上げられた瞬間、全員がどっと砂の上に倒れ込んだ。
肩で荒く息をしながら、しばらく誰も言葉を出せなかった。
「……生きて、帰ったな」
六さんがぽつりと呟く。
九郎が駆け寄り、俺たちの顔をひとりひとり確かめるように見た。
「よく戻った……! 心配で、浜から離れられなかったんだ」
ハヤテはまだ涙目で、拳を握りしめていた。
「魚……せっかく獲ったのに……」
声が震える。
俺は肩で息をしながら、その背中を軽く叩いた。
「魚はまた獲れる。でも……命は替えがきかないよ」
雁丸もうなずいた。
「くやしいが、六さんの判断がなきゃ、俺たちは今ここにいない」
六さんはしばらく黙って海を見つめ、それからゆっくり振り返った。
「……あの魚たちが泳いでいく姿を見て、逆に安心したんだ。
俺たちも、同じように生き延びりゃいい」
「その通りだ」
俺は息を大きく吸った。
九郎が笑みを浮かべる。
「魚より、お前らが帰ってきたことが一番の宝だ」
そして、俺たちは互いに顔を見合わせ、声を上げて笑った。
涙と潮に濡れた顔。
舟を浜に引き上げたあとも、俺たちは休む間もなく動き出した。
「よし……魚を陸に上げるぞ!」
六さんの声に全員が立ち上がる。
舟の中で、まだ銀色の鱗がぱたぱたと跳ねていた。
「よいしょっ……!」
雁丸とハヤテが網を引き上げる。
俺も加わり、砂浜に魚を広げると、一気に潮の匂いが立ち込めた。
「すげえ……」
思わず声が漏れる。
丸々としたアジ、脂ののったイワシ、銀色に光る小鯖。
持ち帰った分だけでも、十分だ。
九郎が目を細めて爽やかに言った。
「これだけあれば、今夜の宴も楽しいね」
「ごほごほっ」
源さんが咳をしている。
……昨夜からだ。心配だ。
――天候の悪化。暴風雨。厳しい寒さ。
六さんの決断は正しかった。
クロエの情報では、この冬は格別過酷だという。
俺たちもそろそろこの生活を手放すときかもしれない
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