53話 俺たちは漁に出た 風が強くなった
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
雲が空を覆い、海はうねりを見せていた。
風はやや強い――だが、帆を張れば一気に漁場へ行ける。
九郎が低く言った。
「行くなら早く。欲張らず、すぐに戻れ」
乗組員は俺とハヤテ、雁丸、六さん。
舟は帆を張り、潮に乗る。
あっという間に漁場へたどり着き、網を投げた。
――どっさり。
網は重みで手がしびれるほど魚で満ちた。
要領もつかみ、次々と水揚げする俺たち。
「すごい……! これで冬が越せる!」
胸が高鳴った、その時だった。
ビュン、帆につけた綱が俺の頬を打った。
「いてっ!」
突風だ。
波が高い。白波が立ち、三角波が跳ねる。
潮の流れも速い。気づけば――蛇島が見えない。
「……遭難、か?」
雁丸の声が震えた。
「岸に寄って、風がやむのを待つか?」
俺が叫ぶ。
だが六さんが首を振った。
「いや、役人に見つかる。蛇島に踏み込まれたら終わりだ」
悶々《もんもん》とする空気を裂いたのは、六さんの言葉だった。
「魚を捨てろ!」
「え……?! マジすか!」
「こんなに獲ったのに!」
「みんな喜ぶのに!」
俺たちが叫ぶ間にも、六さんは迷わず魚を放り投げていく。
銀色の鱗が海に散り、魚は喜んだように波間へ消えた。
「……くそっ!」
ハヤテは泣きながら網を掴み、魚を捨てた。
仲間の食料――それでも命には代えられない。
「今だ、帆を張れ!」
六さんの声に俺たちは一斉に動く。
波が来る!
「つぶせ! 体重移動だ! 船首を取られるな!」
「くるぞ、くるぞ――そーれっ!」
舟は波を叩き、走り出す。
白波をつぶすたび、船体は軋む。
六さんは冷静に舵を握り、周囲を見渡した。
「蛇島は……あっちだ!」
その先に、影が見えた。
「……見えた! 蛇島だ!」
浜に人影が立っている。
九郎だ。心配そうにこちらを見ていた。
「ハヤテ! もやいを!」
「うん!」
ロープが放たれ、九郎がそれを受け取る。
舟は岩の一本道に引き寄せられ、島民七人全員が手を取り合った。
荒れ狂う波から逃れるように、舟は浜へと引き上げられた。
息を吐いた。全身がぶるっと震えた。
――生きて帰ったのだ。怖かった。
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