49話 俺たちは、投網漁をした
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
秋の海は、澄んでいて冷たかった。
水汲みから帰ったら、みんなが待っていた。
九郎は空を見上げた。
「風と潮がいい。昼過ぎまで変わらない」
六さんが笑った。
「いい日だ。今日は網で漁をしよう」
そうだ、六さんは網打ちの名人だ。
小舟に乗り込んだのは、六さん、源さん、九郎と俺・安介の四人。
残りのメンバーは集めて来た、漂流物で「我らが館」を住みやすくするという。
南側にも壁を付けて欲しいが……任せよう。
今はただ生き残るために漁へ出る。
秋の海は、澄み切っていて、吸い込まれそうなほど青かった。
潮の匂いは強く、不思議と心が澄んでいく。
「安介、しっかり舷につかまってろよ」
六さんが網を肩に担ぎ、にやりと笑った。頼もしさが半端ない。
「舟をもっと沖へ。筋が見える」
源さんが静かに指さす。
確かに、水面の色が一本の帯みたいに濃くなっていた。魚の群れが下を走っているのだ。
「兄さんだったら……こう漕ぐ」
九郎が呟きながら懸命に櫓を押す。
まだ腕は細いのに、波に逆らって舟を進める姿に熱がこもっていた。
舟がぐっと止まった瞬間、六さんが立ち上がる。
「行くぞ――!」
網が弧を描いて宙を舞い、陽光を受けてきらめいた。
ばしゃん! と水面を叩く音。
網は円を描いて広がり、群れを包み込む。
「おおっ……!」
俺は思わず声を上げた。
水面の下で銀の影が跳ね、網にかかって暴れるのが見える。
「今だ、引け!」
六さんの号令に、源さんと九郎が綱を手繰った。
俺は必死で舟の重心をとる。
傾いていく舟をできるだけ水平にするため、身を乗り出した。
耐えなければ、魚と一緒に海の中に落ちてしまう。
汗が噴き出した。
「やった! 獲れたぞーー!」
水飛沫が弾け、数十匹の鰯が一斉に跳ねた。
陽の光を浴びて、鰯たちは銀色に光る。
「すげぇ……! 丸々太った鰯だ!」
はっきり言って腹ペコだ。
食べ物を見て、こんなに嬉しかったことはない。
「一日では、食べきれないな!」
「鰯は弱いから、帰ったらすぐに丸干しにしよう」
「いや、大きいから開いて干物だ」
「燻製もうめえぞー」
これまで、遠慮しながら食べて来た。
こんなに取れたら、……たくさん食べられるかもしれない。
肥満というのは人のが飢餓の記憶をもっていて、食べられるときにエネルギーを蓄えようとしているからだと聞いたことがある。
でも、実際この生活をしてみるとわかった。
いつまで食べ物があるかなんて、わからない。
冷蔵庫開けたら、食べ忘れて腐っていたとか
賞味期限切れてたなんて、だめだよ。
――そこのあなた!
食べ物を得るのは、大変なんだとつくづく思う。
最近は、朝から晩まで食べ物のことしか考えていない。
マック……思い出してしまった。
――行きたい。
「安介、桶を出せ!」
六さんが叫ぶ。
俺は急いで舟底の桶を差し出した。
源さんが次々と魚を放り込む。
桶の中で魚が跳ね、冷たい海水が俺の顔にかかった。
「ははっ、やったな!」
六さんが豪快に笑い、九郎も爽やかな笑顔を見せた。
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