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4話 安徳を守る剣士


――ついに、護衛役と剣術の指南役となった若き剣士と出会う。だがその剣士には、恐るべき秘密があった……!


 「この者ですぞ、安徳様。あなた様をいつでもどこでもお守りします。そして、お望み通りに剣の指南もしてくれますぞ」


 おじ宗盛に連れられてきたのは、十代の半ばと思しき少年剣士だった。

 白の陣羽織じんばおりに細身の太刀を携え、鋭い眼差しをしている。


 「雁丸がんまると申します。安徳様、よろしうお願いします」


礼儀は正しいが、声には感情がない。

幼い帝の剣の相手などやってられないという思いがにじみ出ている。


 (なんだ、この裏切られた感は……?)



 その夜、俺は眠れなかった。

 いや、正確には“警戒していた”と言った方がいいかもしれない。


 雁丸がんまる――俺の新しい護衛そして剣の指南役。

 若いのに妙に完成された動き、無駄のない足音、感情のないまなざし。

 「強い」ことは一目でわかる。でも、それ以上に「何かを隠してる」気配がしていた。


 (もしかして……源氏の間者かんじゃ、つまりスパイ?)


そんな不安が脳裏をよぎった俺は、そっと布団を抜け出し、館の外に出た。


 雁丸はそこにいた。

 月明かりの下、ひとり、剣を振っていた。


 静かな剣舞だった。だが、その動きには一片の隙もなく、鋭く流れるようだった。

呼吸に合わせて、重心をわずかに移動させながら剣を打ち下ろす。

その型――どこかで見たことがある。

映画「新撰組」だ。この作品の視聴は、日本史クラブの必須課題。新選組を知らぬものは、部室の敷居をまたいではならないだ。


 「……見ていたのか」


 その声に背筋が凍った。

 雁丸は、俺の存在に気づいていた。


「あの、ぼくは、その……お水を飲みに……」

「子どもが一人で夜中に出歩くなんてありえない。子どもというものは、おばけが怖いはずだ」


 ぴしゃり、と言い切られた。

 逃げ場はない。何も言えねえ……。


 「あなた様は『安徳天皇』だ。高倉天皇と平家の姫・徳子の子であり、平家の未来だ。……だが、俺はそれを守るつもりはない」


 俺は言葉を失った。

――俺より詳しい!


 「勘違いするな。命令には従う。護衛としての役割も果たす。だが俺は、平家にも源氏にも与しない。『平家だから守る』わけではない」


 「……じゃあ、なぜここにいる?」


 そのとき、初めて雁丸が目線を外した。

 月に向けられたその横顔には、深い陰りがあった。


 「《《あの人》》の遺言だ。『お前はこれ以上血を流してはならぬ』――そう言われた。だから俺は、せめて誰かの盾になろうと思った」


 その《《あの人》》が誰なのかは、わからない。


 けれど、俺は確信した。


 (この剣士は……味方だ。少なくとも、敵ではない)


 この出会いが、後の運命を大きく変えることになるとは、このときの俺にはまだ知る由もなかった――。


 その翌日、空気が変わった。

 山の麓で薪を拾っていた村の衆が、青ざめた顔で戻ってきた。

 「……馬の足跡がありました。四騎ぶん……」

 「源氏じゃ……!」


俺は女官に抱かれて、避難するため船に乗せられた。

若い女官は、いい匂いがする。

そのまま、抱かれて座っていると。

後ろで雁丸が「ちっ」と言ったのを俺は聞き漏らさなかった。


雁丸は立ち上がり、船首に立った。

「六歳の安徳さまは、甘えん坊でございますな。剣術の指南はよろしいのでございますか?」

この時、俺は思った。

――面倒くさいやつ。もっと女官の膝に抱かれていたいのに。


雁丸は、何を知り、何を隠しているのだろうか。



読んでくださってありがとうございます。

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