47話 俺たちは、島を出て水汲みに行く
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
夜明けの浜に、小舟を押し出した。
帆を巻いたままの姿は頼もしくもあり、少し心細くもある。
――この舟は、俺たち七人をのせて四十五キロメートルの海を渡り切った。
浦長に貰った大事な宝だ。
「今日は風がある。帆を使ったほうが早いな」
雁丸が舳先で空を仰ぎ、帆の縄をほどく。白い布がパッと広がり、潮風を受けて膨らんだ。
舟は海面をすべるように進む。
ハヤテは舵を握り、舟の向きを整えている。
「任せとけ、安介!」
笑ってはいるけれど、声に少し緊張が混じっていた。
その緊張は、対岸に住む人にみつかったら……ということ。
平家の落人狩りは金になる。
きっと役人に知らせ、捕らえられ殺される。
自然の中でのサバイバルであり、人から逃げるサバイバルでもある。
夜明け時を狙ったのはそのため。
人が動き出す前に成し遂げたい。
俺は真ん中に座り、六つのひょうたんを抱えていた。
昨日まで入っていた水はもう空っぽ。
これから汲む水が、俺たちの命をつなぐ。
やがて前方に白い筋が見えてきた。
「……あれだな」
雁丸が指さす。
海に流れ込む水の帯。葦が両脇に生えて、川の入り口を隠している。
「帆を放す」
雁丸は帆についた綱をゆるめる。帆は、はたはたと風を逃がした。
俺が櫓を漕ぐ。
舟はゆっくりと川口へ滑り込んでいった。
できるだけ、きれいな真水が良いに決まってる。
舟を上流へと進めていった。
葦の影が舟を包み込み、ひんやりとした空気が肌を撫でる。
「ここらでどうだ?」
俺は手を伸ばし、水をすくって口に含んだ。
冷たさが舌を刺し――しょっぱくない!
「……真水だ!」
思わず声が上ずった。
「よっしゃ!」ハヤテも水をすすり、笑顔を弾けさせた。
雁丸も一口飲んで、静かにうなずく。
俺たちは、ひょうたんを次々と満たしていった。
空っぽだった器が重みを取り戻す。
水の音が、心まで潤していく。
「これでしばらくは持つな」
雁丸がひょうたんを肩に担ぎ、言った。
「料理屋は、毎日欲しいってさ」
俺は濡れた手のひらを見つめながら、小さくつぶやく。
「……生きられる」
水がこんなにもありがたいなんて……。
蛇口をひねれば水が出るのが当たり前だった。
飲める水を供給してくれるシステム、すごくないか?
雁丸が、周囲を見渡した。
「誰にも見られていない。
俺たちが来た痕跡もない」
――誰かが来る前に、蛇島に帰ろう。
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