43話 蛇島に漂流した平家の紅い旗
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
火がぱちぱちと音を立て、粥の匂いが立ちのぼる。
皆、自分の椀と箸を取り出した。
丸い杓子で、年長者から取ることにした。
すると、最後の俺には、皆よりちょっと多めに残してあった。
愛だ! 愛の家族だ。
――思いやりあふれたメンバーで、
一緒に「生きる」という目的を達成する。
一人として欠けることなく、生き残ってやる!
っていっても、これから冬が来る……不安だ。
六さんが立ち上がった。
「よし、朝のうちに、今夜の寝床を作ろう」
「倒木や流木を集めるんだ。
いや、まずは島の探索か?」
皆は立ち上がった。
砂浜は東側と西側に広がっている。
西側には、合戦の名残を伝える漂流物があった。
ハヤテが駆け出し、大きな声で叫んだ。
「おーい、ここに旗があるよ」
六さんが駆け出す。
「どれ?」
「ああ、これは……知盛様がお味方に下すったものだ」
九郎が紅い旗を広げ、くしゃっとして抱きしめた。
その顔はみるみる引きつり、嗚咽した。
「知盛様ぁ……ああ、あんな勇敢な最期を……うっ、うっ」
九郎は手を合わせた。
念仏のようなものを唱えている。
九郎は知盛公やじい様を心から慕っているんだ。
見ている俺まで泣けてくる。
俺は自分が海に沈んだ後のことは何も知らない。
黒猫クロエに訊ねた。
「知盛公の最期って?」
クロエは俺の足にすり寄る。
背中をすりすりさせて、ミャアと鳴いた。
俺はクロエを抱き上げた。
「知盛公のことは、この合戦のクライマックスニャ。……潮の流れが変わり、源氏が優勢となり、平家一門が次々と海へ身を投げる中、総大将の平知盛はこう叫ぶニャ」
『見るべきことは見つ、聞くべきことは聞きたり。後はただ、世をはかなみて入水せんのみ』
つまり――『見るものは見た、聞くべきことも聞いた。あとはただ、世をはかなんで海に沈むだけだ』という意味ニャ。
そして知盛は、甲冑を着けたまま、碇を体に結びつけ、海深くに身を投げた。
戦場の喧噪の中で、その決然とした最期は、勇将の潔さとして、後世まで語り継がれるニャ」
――あの冷たい海に、知盛おじさんは錨とともに沈んだのか。
助かりたい気持ちなどなかったんだ。
一方、宗盛おじさんは息子と一緒に泳いでいるところを助けられた。
そして、蔑まれている。
この時代の価値観は、「勇敢さ、潔さ」に尽きる。
でも、俺は現代の人間。生き延びることに価値がある。
ーーこの島でサバイバルしてやる!
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。ブックマークお願いします。リアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!