42話 蛇島で暮らす仲間たち
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
島の西側いっぱいに、白い砂浜が広がっていた。
「ああ、島だ!」
「今日から俺たちの住処になるかもしれないな!」
目を凝らすと、砂浜の中央に不思議な一本の道が見えた。
岩を寄せ集めて作られた、まるで桟橋のような一本道だ。
「おっ、いいものがあるぞ! あれの風下に回せ!」
六さんが声を張る。
雁丸がすかさず舵を切り、舟は岩の道へと寄っていく。
近づくと、それはやはり人の手で組まれた桟橋だった。
「おいらが一番乗りだ!」
ハヤテがもやいを握ったまま、勢いよく跳び下りる。
ザッ! と足をついた瞬間、舟がぐっと引かれる。
「へへん、こりゃいいぞ! 足を濡らさずに上陸できる!」
続いて皆も次々と岩の道に飛び移った。
岩の一本道を歩き、砂浜へ――。
濡れずに砂を踏みしめられることが、これほどありがたいとは思わなかった。
これから冬がやって来る。
もし海に足を浸したまま上陸するようなら、冷たさで体がすぐにこわばるだろう。
けれど、この岩道があれば……船の乗り降りはずっと楽になる。
俺たちは顔を見合わせて、自然と笑みをこぼしていた。
「いい島だな」
みんなで舟を砂浜に引き上げた。
朝の凪、無風だ。
「うん、ここだ。ここが蛇島だ!」
ハヤテは父との思い出を懐かしむように目を閉じた。
「ちょっと寒いな」
雁丸が肩をすくめる。
「まずは火だな」
六さんが、漂着した流木を手早く組み上げた。
皆で舟の荷を下ろした。
そして、焚火を囲むと、自己紹介の続きを行った。
「じゃあ、俺から……苗字は言わないでおく。
源太だ。今年24になった。釣り場を見極めるのが得意だ。
干物作りもけっこう好きだ。相棒はこの釣り竿だ!」
彦島で使っていたんだろう。手入れが行き届いた釣り竿だった。
「源さんって呼んでいい?」
「ああ、いいよ。源さんで頼む」
源さんは、ちょっと俳優の星野源に似ている。
多才だけど、余計なことを口にしないタイプと見た。
「俺は料理屋って呼ばれている。……ここでも料理屋で頼む。
料理が好きなんだ。馬関の旅籠で料理でもしようかと本気で思っていた。
まあでも、……追われる身だから、諦めたが……」
しんとなった。
「みな、同じだ。……追われていなければ、やりたいことができたはず」
六さんが言った。
料理屋は風呂敷から鍋を取り出した。水筒代わりのひょうたんから水を注ぐ。そして、小袋から米を取り出し、鍋に入れて火に掛けた。
「飯を食わにゃ元気がでないぞ。うんまい粥を炊いてやる」
料理屋は、よく研いだ包丁も持ってきていた。
どう見ても職人肌。顔は少し大谷翔平選手に似ている。甘いマスクだ。
「ああ、言い忘れた。魚の塩漬け・干物・燻製、美味いものを作りたい。手伝ってくれるか?」
俺は手を挙げた。
「手伝う! 俺も美味いものが食べたい。教えてね」
――ここでも、ご馳走を食べることができそうだ。
捕虜囲いに入れられなくて、本当によかった。
「おいらは、九郎。
……じい様に、一番かわいがられていた。
15歳で一番年下なこともあってね。
だから、今でもじい様を置いてきたことが……後悔でしかない」
九郎は抱えた膝に顔を埋めた。
六さんが肩に手を置いた。
「九郎、みんな同じ気持ちだよ。
これまでさんざん世話になったじい様だ。
郡司様だった。見事な衣装に身を包んで、平家の知盛様と同等に話していらっしゃった。宋の船が来た時も、接待の役をなさっていた。俺たちの自慢の親方様だ。今でも、俺は大好きだ」
俺はクロエに聞いた。
「じい様は助かるの?」
クロエは尻尾を立てた。
「クロエの歴史検索は公的史料からしか伝えられないニャ。でも、地方史にはじい様の生死が書いてある。でも、それは今は言えないニャ。安介、楽しみにしておくニャ」
六さんは九郎の肩に手を当てて言った。
「九郎はな、天気を当てられるんだ。風や雲・潮まで読める。九郎が『嵐が来る』とそわそわし始めたら、みんなに知らせろ。絶対に間違えない」
九郎が、顔をあげた。
空を仰ぎ、耳を澄ませ、ぼそっとつぶやく。
「夕方から北風が強くなる……今夜は焚き火を守れ」
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!