39話 俺が安徳天皇だとばれてしまった
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
網干場は、今日も潮と魚の匂いでいっぱいだった。
お花ちゃんが腰に手を当て、隣のお鈴ちゃんを見やる。
花:「お鈴、あんた、その魚さばき、逆だよ逆!」
鈴:「え、逆? だって背中からやったほうが早いじゃない」
花:「早いけど、腹ワタが飛ぶでしょ! 昨日なんて私の顔に直撃したんだから!」
鈴:「えへへ、口紅と頬紅でちょうどいいよ」
花「魚の血で化粧はしない!」
お鈴ちゃんがキャハハと笑い転げる。
お花ちゃんもつられて笑う。くくっと、愛らしい。
網を干していた男たちが、思わず吹き出す。
炊き出しの鍋から立ち上る湯気まで、なんだか柔らかく見えた。
雁丸がつぶやく。
「こういう笑いは、良い。 戦帰りで荒んだ心に効く」
ハヤテはうなずく。
「おいらたちもここで元気になってきたな」
浦長は、炊き出し場のにぎやかな空気を壊さず、手際よく指示を飛ばしていた。
「おーい、干し網は雨が来る前に裏返せ!……おーい、お花とお鈴、こっちにきて、網を裏返してくれや」
「おっと、花ちゃん鈴ちゃんも網の裏返しを手伝ってくれるらしいぞ」
「おい、いいところ見せなきゃな」
「そっち持ってくれ、いくぞ……そーれ」
みんなの動きが、急によくなってきた。
浦長がニヤリ。
まったく、この人、本当に「ついていきたい上司No.1」だと思う。
――その空気を、荒々しい声が切り裂いた。
「ここの漁師、全員集めろ!」
港の入口に、源氏の下級武士が数名立っていた。鎧は薄汚れ、腰の刀がギラリと光る。
「捕虜囲いにいたやつを探している! この中に紛れ込んでいないか?」
その声に、場が一瞬で静まり返る。
仲間を売るようなやつはひとりもいない。
「初めて聞いた」「知らないよな」という表情で集まってきた。
漁師たちがずらりと並び、下級武士が一人ひとりを見ていく。
源氏の味方の侍たちは、「ご苦労様です」などと言って余裕の表情だ。
また、元々の漁師たちもよそ見をしたり肩を回したりして余裕だ。
平家の落人の番になった。
顔をそむける。目を細めて別人の表情を作るなど、苦し紛れの姿だった。
そして、俺たち。
日焼けもしたし体も締まった。恐れることなど何もない。
源氏の下級武士が前に立った。
ーーそれは、よく見ると、かつての平家の一員だった。
今では、源氏の下働きをしているのか。
「見覚えあります。……あいつと、あいつ……そして――あのガキだ!」
指先が、俺を刺した。
胸が一瞬で凍る。
周りがざわめく。
「え、なんで……?!」という視線が突き刺さる。
(そうだ読者様、――俺、安介の正体を思い出してほしい。
かつて壇ノ浦で入水したはずの安徳天皇。死んだと思われていた俺は、必死に生き延び、いまは彦島で漁師見習いとして生きているんだ)
浦長がすかさず前に出た。
「何かの間違いじゃないですか。この子は漁師仲間の子です。生まれたときから知ってます。親が死んだので可哀そうに思ってね。うちの嫁が、『あまりにも可哀そうじゃないか』って言うんで、仕方なく使っているんですよ」
その声は、低くて重い。
源氏の役人は俺から目を離さない。
俺は心臓が飛び出しそうだった。
――ばれてしまった。
――今度こそ、殺される。
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