38話 平家の残党のコミュニティができた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
浦長の屋形の端に妙な一角ができていた。
廃材で組んだ骨組みに、漁網を壁代わりにかけ、潮風よけに古い帆布を張っただけの小屋。
昼間はがらんとしているが、夜になると焚き火の周りに男たちが集まり、雑炊や粥をすすり干物を焼いている。
「なんだか、新しい村ができたみたいだな」
ハヤテが肩をすくめる。
「まぁ、雨露しのげるだけ天と地の違いだろう」
雁丸は焚き火の煙を避けながら言った。
そこにいるのは、ほとんどが平家の残党だ。
顔つきはまだ硬いが、漁や炊き出しを手伝ううちに、少しずつ表情がほぐれていく。
そして、よく食べる。
浦長は多くを語らないが、時々ふらりと様子を見に行く。
新入りがいれば黙って魚籠を置き、怪我人がいれば薬草を渡す。
誰も礼は言わないが、全員がわかっていた
――浦長がいなければ、……俺たちはみんな死んでいた。
ただ、源氏方の連中と同じ船に乗る日は、やっぱり火花が散る。
「おい、網引くのが遅ぇぞ!」
「海は初めてなんだ、わかるように教えろ!」
そんなやり取りが、毎朝の日課みたいになっていた。
でも、港に戻れば、肩寄せ合って同じ鍋を囲む。
潮と煙の匂いに包まれ、湯気越しに見える顔は、敵でも味方でもなく
――ただ、生き延びようとしている人間の顔だった。
そこに登場したのは――この浦一番の人気者姉妹のお花ちゃんとお鈴ちゃん だ。その場に立っただけで、空気がぱっと華やぐ。
姉のお花ちゃんは十四、ほのかに色づいた頬と、しなやかな長い黒髪が風に揺れる。
淡い紅の小袖に浅黄色の帯を締め、背筋をすっと伸ばした姿は、浦娘ながら気品すら漂わせていた。
少し細身で華奢な体つきなのに、動くたびに袖口からのぞく指先まで優雅に見えるから不思議だ。
妹のお鈴ちゃんは十二、姉よりふっくらとした頬に大きな瞳が愛らしい。
元気いっぱいな声で笑うと、髪に結んだ赤い紐がひらひら揺れた。
麻布の小袖も、彼女が着ればまるで花模様の衣のように見えてしまう。
体形も姉より健康的で、豊かな丸みが生命力を感じさせた。
そんな二人が並べば――当然、みんなの目は釘付けだ。
「お花ったら、また髪に花かんざしなんか挿して……似合わないって言われたばかりでしょ?」
お鈴が口をとがらせる。
「なに言うの。似合わないって言ったのはあんただけよ。みんな、お花ちゃん、お似合いだよ~って言ってくれた」
お花が涼しい顔で返す。
「ふーんだ、じゃあ今日はわたしが挿す! 貸して」
「やめなさい、お鈴、あんたには、10年早いわ」
二人のやりとりに、俺たちはつい吹き出してしまう。
雁丸でさえ珍しく目を細めていた。
――そう、いつの時代も「アイドル」は無敵だ。
笑い声ひとつで場を明るくして、みんなの心を和ませてくれる。
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。
平家の落人コミュニティができました。それなのに……次回は、暗転します。
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