36話 源平同舟 漁に出た
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
翌朝。夜明け前。まだ東の空が白むころ、俺たちは船に乗った。
浦長の持つ一番大きい船だった。
波の間から昇る朝日が、海面を金色に染める。
今日は源平の侍が同舟だ。
それと、俺とハヤテと雁丸。
平家からは通称「六さん」。
みんな知っているが決して呼ばない本名は、和田六郎、八郎の兄だ。
それと、もう一人。
料理がうまいので「料理屋」と呼ばれている本庄 弥五郎。
「料理屋~」と呼ぶと、
「はい、ご注文は?」と話を合わせて笑わせてくれる。
源氏からは立花さんと杉山さんだ。
この7人で夜明けの港を出発した。
「俺たちは侍と言っても地侍だ。
漁師もやるし、田の仕事もやる」
そう言って立花さんが舵を握る。
立花さんは丸刈りがトレードマークだ。
帆を操るのは六さんだ。
こちらは真面目そうなイケメンだ。
――船の操作に無駄がない。
風のつかみ方、潮のよみ方も的確だ。
ハヤテにいわせりゃ、
「すげえなあ。……立花のおっさん。すげえな、六さん。……おお。こんなに早く船が走ってるよ。海鳥にも負けねえな。……すげえよ。ほんっとすげえ」
雁丸は剣の相手を欲しがっていた。
「お子様に指南するばかりで、最近めっきり腕が落ちて来た。
お侍が乗っているから聞くが、剣の相手をしてもいいってお方は、どこかにいないものだろうか……」
ぶつぶつ言ってる。
「それでは、お相手いたそう。……立花と申す」
立花のおっさんが舵を取りながら、雁丸を見た。
「おおお?! 立花殿、それは本当か? それはありがたい。それでは、漁から帰って、飯を食って、浦長の話を聞いたら、……ぜひぜひぜひ! お手合わせ願いたい」
雁丸はとびきりご機嫌で、網の準備を始めた。
「おい、綱持ってろ!」
「ほーーーーーーーい!」
網打ち名人と自称する六さんが、網を投げた。
――見事だ!
六さんが潮の向きを見ながら、操船の指示を飛ばす。
そして、タイミングをみて、叫んだ。
「引けぇ! 一気にだ!」
俺たちは力の限り綱を引く。
「そんなに引いたら破けるって!」
六さんが慌てて叫ぶ。
最後は大男の杉山さんが網を引き上げた。
網の中で銀色の魚が暴れる。ピチピチと跳ねる音がする。
鱗が朝日に光って、美しい。
たくさんの魚が船底で跳ねている。
太いのや長いのもいる。
ーーすごい、大漁だ!
初めての漁で、こんなに獲れた。
「帰るぞ」
立花さんが、舵を切る。
帆が逆向きにはらむ。
こんなに早く漁が船が帰ることは無かった。
さすが、プロだ。
この人たちはプロ集団だ。
「もう帰るんだね。今日の漁は楽だったなあ」
六さんが笑う。
「そうだな、安介。
いつもこんなにうまくいくわけじゃない。
獲れても網をあげるときに半分位が逃げてしまうこともある。
今日は運が良かった」
「ほらよ、安介。捌き方、覚えとけ」
料理屋・本庄弥五郎が包丁を握り、手際よく腹を割く。
潮と血の匂いが混ざり、海鳥たちが騒ぎ出す。
「船の上で捌くんだね」
「そうだ。その方が陸に帰って楽だろう」」
「小さいのは炊き出し用だ」
料理屋本庄は、雑魚を桶に放り込んだ。
手際が良い。良すぎる。俺はうっとりした。
「この顔ぶれなら、最強だね」
大男杉山が咳払いをした。
「わしの自慢話を聞いてくれ」
「んー、いいけど」
「わしはな、百人力の怪力を買われて、秀通様に召し抱えられたんだ。
「へー」
「舟を丸ごと担げるんだぞ」
「おーーっ! すっげえな」
ハヤテがまた興奮してきた。
「舟を担げるんだね。すっげえなあ。今度やってみせてよ。いよっ大男杉山さま! すげえなあ、見てみたいなあ」
網を引く様子から想像するに、まんざら嘘でもなさそうだ。
筋肉が隆々と盛り上がっている。
「よし、力比べじゃ。わしに勝ったら、お花ちゃんを嫁にやろう」
船の上で、腕相撲大会が始まった。
安介、ハヤテ、雁丸の順に挑んだが、秒殺だった。
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