35話 浦長の決断
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
そのとき、低く通る声が場を切り裂いた。
「――やめい」
浦長が歩み出てきた。表情は険しい。しかし揺るがない。
「《《何も聞かない》》。……うちで働け」
それだけ言い放つと、背を向けた。
その一言で、誰も「平家の……」という言葉を口にしない。
ここでの掟は、そうやって作られる。
だが、これで終わりにならなかった。
網の陰から、さらに三人の男が現れる。
髪は乱れ、衣はほつれ、表情は決して素性を明かすまいという固さを帯びている。
「名乗る名はありません。ですが、我らも……同じように隠れて生きねばならぬ者です」
「どうか置いてください。お願いします」
「お願いします。……なんでもします」
雁丸がちらりと俺を見た。
――こいつらも、捕虜囲いから逃げてきた平家か。
――ああ、そうだね。見覚えがある。
――じい様の家臣に間違いない。
こうして、浦長の世話になっている源氏方の侍三人に加え、平家方の四人が新たに加わった。
同じ村の出身で、敵味方に分かれて戦った仲。
仲間……のはずなのに、彼らに漂う空気は微妙だ。
すれ違いざまに肩がぶつかる……視線がぶつかり、火花が散る。
衣類などを差し入れしようとすると、
「いや、それはかたじけない。……こんなに良い衣は受け取れぬ」
飯時には
「そちらの方々、先に食ってくだされ」
「いやいや、そうは参らん……そちらこそ先に食ってくだされ」
「いや、どうぞお先に」
「そちらこそ、お先にどうぞ…」
……まあ、見ちゃいられない。
浦長の若い衆が話していた。
「盗人みたいなやつら四人が、郡司様の家臣だ」
「つまり負けた平家軍の侍だろ」
「その通り。郡司の秀盛様は、かつては平知盛とも対等に付き合うほどの土地の有力者だった。女将さんの話では、知盛と同じ装束で宋船の接待をしたらしいぞ。でも今は落人狩りに会って捕虜囲いの中だ」
「お気の毒にねえ」
「そしてあの三人が源氏の侍。郡司の息子秀通さまの家臣だ。今、鎌倉の頼朝公のところに褒美をもらいに行っておられる」
「いや、だから、親父さんの命乞いをされるらしい」
「まさか。褒美をもらいに行ったのさ」
新参者の源氏の侍と、平家の侍。しばらくは噂の種だった。
どちらも仕事と食べ物を求めて、浦長の下で漁師になる。
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