34話 兄ちゃんは盗人じゃねえ!
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
夜明け前。今朝の漁港は風が無い。
みんなが言う「凪」だ。
「ベタ」という人もいる。
浦長の網干場から網を船に積み込むのが、俺たちの仕事。
両手に網を抱えて運んでいた。
「……おい、あれ見ろよ」
ハヤテが目を細め、顎で指した先に――ひょろっとした影。
その影は、ボロボロの直垂に足は裸足。頬はこけ、髪はガサガサ。
網に残った小魚を、片手でむしり取っては口へ放り込み、骨ごとガリッと噛み砕いていた。
「……おいコラァ! 何やってんだ泥棒!!」
ハヤテが一気に駆け出す。
ガタガタッ!
近くで作業していた漁師たちが棍棒や棒を手に、わらわらと集まってくる。
「盗っ人か!」
「ぶっ叩け!」
男は網干場の隅まで追い詰められて、目を見開いている。
「ま、待て……! 俺は……」
しかし漁師たちの耳には届かない。
ごすっ! べしっ! 蹴りと棒の嵐。
その中に、見覚えのある姿が混ざっていた。
秀通の家臣――杉山甚四郎だ。
「おうおう! こんな奴ぁ放っとくと、また盗みをするぜ!」と、そのぶっとい腕でさらに一撃。
男の鼻から血が流れる。
口の端も切れている。
「や、やめろッ!」
人垣をかき分け、一人の少年が飛び出してきた。
痩せているが目は必死だ。
「そいつは……兄ちゃんだ! 頼む、見逃してくれ!」
俺は思わず眉をひそめる。
「兄ちゃん……?」
少年は振り向き、息を荒げながら名乗った。
「俺は源氏の秀通親父の家臣、和田八郎! 兄ちゃんは和田六郎、平家の……いや、元・平家の武士だ!」
その言葉に、漁師たちが一瞬動きを止める。
――ため息がもれる。
――兄弟で敵味方か。
――すげえな……
六郎と呼ばれた男は、血の滲む口元で小さく笑った。
「……すまねぇ、腹が減って、ついな」
八郎は兄の肩を抱きかかえながら必死に訴える。
「兄ちゃんは悪いやつじゃねぇ! 捕虜囲いから逃げ出して、……行くあてもないんだ!」
俺の胸の奥に、嫌な記憶がよみがえる。
――落ち武者狩りで追われ、必死で逃げたあの日。
この兄も、きっと同じ地獄を見てきたんだ。
だが……ここから先、どう動くか。
浦長の判断が、場を決める。
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!