30話 平家の侍 供養される
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
俺とハヤテと雁介は、夕焼けに染まる浜を散歩した。
雁介が木の棒を拾って、素振りをしている。
ハヤテも真似をし始めた。
――俺? 俺もやるんすか?
仕方なく前後のステップを踏み、素振りのまねごとをした。
天然理心流は、構えが低い。
ハヤテは早くも雁丸ーー天然理心流塾頭から直々《じきじき》に厳しい指南を受けている。ハヤテはもちろん上達が早い。
俺は、素振りを早々に終え、浜を見ていた。
――波打ち際に、七つの土盛りが並んでいた。
男たちが、砂をかけている。
中央にいたのは――秀通だった。
6人の家臣たちが、黙って手を合わせていた。
俺は、息をひそめて見ていた。
粗末な麻の衣をまとった家臣たち
両手で砂を掬い、海から打ち上げられた遺体にかけていく。
頭をのこぎりで切り落としている老人がいた。
また、鎧や刀を外して取ろうとしている者も。
さらに、そのご遺体から衣をはぎ取る者もいた。
多くのご遺体は、下着姿で頭が無い。
そんな遺体を秀通とその家臣は丁寧に調べている。
――同郷のものではいないか。
――家族の者ではないか。
探し回っていると言っていた。こういうことだったのか。
俺はひとり、浜に降りた。
雁丸とハヤテは「仏さんは見たくない」と、こん棒の練習を始めた。
天然理心流はこん棒もやる。奥が深いそうだ。
「下着に名前の縫い取りがあるぞ」
「キ・ヘ・イ。……キヘイだそうな」
「その名前は、聞き覚えない」
頭の無い遺体は、できれば見たくない
海の生き物が遺体を食べる様子も、見たくない。
でも、忠誠を誓ってくれた平家の侍を見捨てるわけにいかない。
勇気を出して近づいた。
敗北者の遺体は、戦場では放置される。
これまでもたくさんの遺体を見て来た。
どのように朽ちていくのかも見て来た。
幸い頭部は持ち去られていることが多かった。
はらわたを海鳥やカラスが喰う。
夜は獣が喰う。
そして、骨だけになっていく。
男たちは板や手を使って穴を掘った
遺体を穴に入れ砂をかける。
そして、手を合わせる。
そして、次の遺体の下着を確かめる。
「九郎と書いてあるぞ。おめえの弟じゃないのか」
駆け寄った男がつぶやく。
「弟の骨はこんなにでかくねえ。よかった。弟じゃねえ」
皆が黙って穴を掘る。
次の遺体の衣は……
「こんな衣はおらたちの村にはない」
「高貴なお貴族様じゃねえのか?」
俺は駆け出した。
俺はその遺体を見た。
確かに絹の衣だ。
平家の一族の誰かだろう。
骨がむき出しになっている。
ああ、屋島から一緒に逃げて来た一族の誰かかもしれない。
こんな姿になって……。
秀通が俺に気づいた。
「ああ、安介さ……ん」
家臣が振り向いた。
「なんだ、親父さん、この子を知っていなさるのか?」
「ああ、昨日困っているところを助けてもらってね」
俺は、戸惑った。別に助けてなんかいないし。
「親父さんが世話になったって? ありがとうな、坊や」
男たちは、皆良い体格で、こんな時でも明るかった。
こんないい人たちと戦っていたのか。
「おーい。そこにいる皆さーん、明日は捕虜の囲いで炊き出しやるよー」
ハヤテが叫んだ。
「余計な事言うな。早く帰ってこい」という圧を感じる。
「おお。炊き出し。捕虜の囲いってどこだー?」
「亀山様の西でーす。行けばいい匂いするんで、わかりますよー」
ーー捕虜の囲いに来れば、捕らわれた父親、秀盛に会えるだろう。
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