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第2話  安徳天皇 暮らしになじむ

ゆっくり読んでくださいね。感想など聞かせてね。

広間で女官の差し出すおやつを食べた。

「安徳様のお好きな、京のお干菓子ひがしですよ」

「うん。ありがとう」

――うまっ、口の中ですっと溶ける砂糖菓子だ。


女官たちは顔を見合わせた。

「まあ、ありがとうですって。ご立派になられまして、嬉しゅうございます」

……いけない。余計なことは言わないでおこう。


女官たちは顔を扇で隠し、柔らかい物腰で俺を見る。

――ここはどこだろう……壇ノ浦か? いや、まだそこまでは来てない……?

遠くの空に、鳥が渡っていくのが見えた。

――まさか、ここは……平氏の最後の御所、下関市の彦島? その前の屋島?


下手に質問するのもどうだろう。

会話は難しい。下手に未来の知識を話せば、「物の怪が憑いた」だの「呪われた」だの言われるかもしれない。


なんせ、陰陽師が現役で活躍する時代なのだから。

あ、もちろん映画「陰陽師」は映画館で観た。

それにしても、歴史的が変わるような出来事はまだない。


(やばい、俺、このままだと……ほんとに壇ノ浦で海に沈むんじゃ……)


安徳天皇――歴史の教科書に載っていた、哀れな子どもの天皇。

源氏に追い詰められ、祖母・二位の尼に抱かれて、海に沈んだ。


(ちくしょう、そんな人生でたまるか!)


その時だった。

「宗盛おじさまがいらっしゃいましたよ」

との女官の声がした。

ひときわ強い存在感とともに、豪華な装束を纏った男が現れた。


「おお、安徳さま。ご機嫌麗しゅうございますか」


――ん? 平宗盛?

何気なしにたもとに手を突っ込んだ。

あった。俺の大事なスマホ。

「宗盛って誰?」

音声入力を小さな声で行った。


どこからか黒猫が来た。美しい猫だった。俺の前で、両手をそろえて座った。

「にゃあ~。わたしは黒猫クロエ。スマホの音声ツールですにゃ~。

他の人には猫の鳴き声としか聞こえていませんから、ご安心を。

宗盛について説明しますにゃ~」

「ああ、頼むよ」

「――大入道と恐れられた平清盛はご存知でしょうか。平家の棟梁で政治力経済力武力に勝る大男。その次男が平宗盛たいらのむねもり、目の前のお方です」

「ほう、わかりやすい」

「宗盛の兄、重盛が病気で亡くなりました。そして、父清盛も亡くなったのです。この不運続きの平家を平家を引き継ぎ棟梁となります。どこか頼りない人物だったと評価されています。弟である三男知盛とは共に戦います。今は、宗盛が平家の棟梁であり、後白河上皇と交渉などしています。貴族社会の事務処理に優れた人だったとも言われています。その死にざまから悪く書かれていますが、妻や子を大事に思う家庭人だったようです。令和に転生すればよいパパになることでしょうにゃ~」

黒猫クロエに「わかったよ」と片目をつぶって見せた。

クロエは尾を立てて、どこかに行ってしまった。


宗盛は、やや太めの体をゆっさゆっさと揺らし、お干菓子をつまむ。


「やはり京の菓子は格別じゃのう。安徳様はどの形がお好きかな?

宗盛は、梅の形が……好みでおじゃーーる。わっはっは!」


梅の形の干菓子を幾つもつまみ、一斉に上に投げて大きな口で受け取った。

口に入らなかった菓子はばらばらと床に散らばった。

「わっはっは!!」

宗盛に合わせて、女官たちが扇で口を隠して笑う。

「きゃー」

「ほっほっほ!」

「なあ、愉快であるなあ」


(この人じゃダメだ……このままじゃ、俺も死ぬ)

ならば、どうする――?

答えは決まっている。


「ところで、宗盛おじさん。お願いがあるんだけど」

「おお、なんなりと。安徳様のお願いとあらば……」

「都から書物を集めてきてほしいんだ。色んな本。何もかも。農書もぜひ」

「……農書?」


宗盛は目を丸くした。が、すぐに頭を下げた。

「はっ。すぐに手配しましょう」


(第一歩だ。知識こそが、生き延びる力)


兵法。医学。民心の掌握。

何一つ無駄にせず、俺は「安徳天皇」として、この国の運命を――いや、歴史そのものを変えてやる。


だって、2回も死にたくないから。



安徳を応援してください。

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