28話 秀通(ひでみち)との出会い
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
今日は港で炊き出しだった。
源氏の下級武士がたくさん来た。
戦後の褒賞が進んでいないらしい。
武功のあったものは鎌倉まで行くという。
主人の帰りを待つ下級武士で、この馬関は賑わっている。
炊き出しはあっと言う間に完売した。
ま、完売っていってもタダなんだけどね。
俺の呼び込みがうまくなったのも、早く終わった理由だろう。
かわいい6歳男児が「たきだしだよー。食べてってー」って、可愛い声を張りあげるのだもの。
体は子ども、頭は大人の俺は、毎日がんばっている。
今日も雁丸とハヤテとで、古着でも買おうと歩いていた。
浦長に貰った宋銭で、夏の古着と帯と下着とを見て回った。
人ごみの中で、ふと足が止まった。
――あれ?
そこにいたのは、「藤原のじいさま」だった。
背筋を伸ばし、鋭い目であたりを見回すその姿。間違えようがない。
壇ノ浦の合戦の前夜、息子をはじめ12人の男たちを連れて平家に忠誠を誓った男。
記録係の筆を俺は見ていた。藤原の秀盛に違いない。
先日、捕らわれたはずなのに……なんで?
「……じいさま?」
思わず声が出る。男がこちらを向いた。
「なんだ、お前……わしを知っておるのか?」
低い声。けど、目の奥がどこか懐かしい。
――違和感が走る。平家の侍がこんな人ごみにいるはずがない。
それと、やたら肌の艶がよい。他人の空似か?
「……あ、いや……その……」
やばい、言っちゃいけないことを言ったかな。
俺は、郡司である藤原秀盛が捕虜になって連れ去られたのを、この目で見た。あの時は、助けることができなかった。
「すみません、人違いです」
そう言った。しかし、男は背後にピッタリついてきた。
「大丈夫だ。秘密は守る。……親父のことだろう? 教えてくれ」
雁丸が間に割って入る。
「おっさん、その話はやめときな」
だが男はなおも迫る。
「米だ。米をやろう。刀か? やるぞ。
いや、子どもが欲しいものはなんだ? 黒飴か?
命以外なら何でもやるぞ」
そして、手を合わせた。
さらに、ぐいと俺の腕を取り、人気のない網干場まで引っ張った。
雁丸は刀に手をかけてついてくる。
ハヤテは周囲を見回しながら、ついてきた。
男はバタンと足を折り、地べたに正座した。
「頼む。話を聞いてくれ」
頭を下げたまま合掌している。
「わしは源氏の味方となった藤原の秀通という者だ。
親父、藤原秀盛と弟は、平家の味方となった。これは、家を存続させるため話し合って決めたことだ」
「あ、はい」
俺たち3人は、顔を見合わせた。
「父は郡司として、ずっと平家とつきあってきた。名前だって清盛さまの盛の文字を貰っている」
「はあ」
「あなたは親父を知っている……言いづらいことも、あるのかもしれないな。もしそうなら、秘密は守る。……私は、親父の遺体を探している。親父を支えてくれた地侍たちや弟の遺体も。首切り場から、浜辺の首なし死体まで、くまなく探した。でも、見つからない」
「そうですか」
「……ということは、生きているということか?」
男は顔をあげた。
雁介は何かあったらすぐに男の腕を斬り落とすつもりだろう。
カチャリ、雁丸は本気だ。
「安介、騙されるな。平家の落人を探して、褒美にありつきたいだけの嘘だ。ほら、この辺りの奴らはみんなそうだろ。平家を差し出す。金が貰える。そういう企みだ」
「違う。あなたが私の顔を見て、親父と見間違えた気がして。親父とそっくりだと言われるのだ。もう一度伺う。わしの親父、藤原の秀盛を知っていなさるか? 生死だけでもよい。教えてくれ」
ハヤテが小刀をちらつかせた。
「知っていると言ったとたん、隠れていた手下が俺たちを取り囲むんじゃないの?」
「違う。俺は一人でここに来た。信じてくれ。もちろん、下の者はいる。港の炊き出しをゆっくりとご馳走になっているはずだ」
「そうか? 戦が終わって二月も経ったんだ。あんたや手下は自分の家に帰らないのか? おいらたちは、もう漁の仕事に戻っているんだけど? 何の仕事か知らねえけど、仕事が待ってるんじゃないの? やっぱり落人狩りが仕事か?」
男は、がくっと首を落とした。
「地元には帰れない。地元は親父の領地だ。平家一門の領地なんだ。源氏に味方した俺は、敵ってわけさ。……行く当てもなく、やる仕事もなく、親父やら仲間やらの遺体を毎日探している……」
男は、疲れ果てた表情で深く息を吸った。
――嘘じゃないかも。
雁丸が辺りを調べに行った。
曲者がいたら、斬るのだろう。
俺たちは沈黙した。
――じいさまのこと、話すにしても命がけだ。
話さなくっても構いはしない。
だいたい、嘘かもしれない。
ん、待てよ。
目の前の男は、源氏の仲間だが、平家の家族をもつ。
今の俺と同じじゃないか。
そういう、どっちも仲間みたいな奴、めったにいないだろう。
もし、この男の話が本当で、俺と同じどっちも仲間なら、
……じいさまのこと教えてやってもいい。辛い気持ちはお互い様だ
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