24話 じい様との再会
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
港に、妙なざわめきが走った。
「源氏の連中だ……捕り物らしい」
誰かがつぶやく声が、潮風に混じって俺の耳に届く。
振り向いた瞬間、息が止まった。
縄をかけられ、腕を後ろに縛られた老人
――藤原秀盛。
長門国豊浦郡の郡司だ。
壇ノ浦の合戦前夜、息子をはじめ12人の家臣と、平家に忠誠を誓っていた。
あの、威厳のあるご老体だ。
笑い皺の深い顔が、今は土色をしていた。
源氏の兵に囲まれている。後ろには数名の侍も引き立てられている。
鎧は泥と血で汚れ、足を引きずるように歩いていた。
「……助けられない」
自分の心が、あっけないくらいに口をついた。
いや、心の奥ではわかってた。助けたいさ。
でも、今の俺は漁師の見習いだ。
一歩でも前に出れば、すぐに見破られ、俺も縄をかけられる。
だけど、あの人は俺を知ってる。
帝だった俺は、記録係の側で見ていた。
その忠義の人が、目の前で引かれていく。
胸が痛い。
「平家再興……」
そんな言葉が、また脳裏をかすめる。
もう無理だ。戦は終わったんだ。
生きるためには、ちゃっかりと、……自分だけでも生き延びるしかないんだ。
じいさんが一瞬だけこちらを見た。
その目には、責めも、恨みもなかった。
俺は何もできなかった。
声も、手も、足も動かなかった。
ただ港の片隅で、潮の匂いと鉄の匂いを嗅ぎながら、藤原のじいさんが人混みに消えていくのを見送った。
その夜、俺は話ができなくなった。
ハヤテは何も聞かなかった。
雁丸が本物の漁師のように網を繕っている。
――ああああ、これでいいのか!! 俺はこれでいいのか?
思い切り叫びたい気分だ
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