23話 安介になったぞ 漁師になったぞ
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
顔に泥を塗ると、海風がひやっとする。
「もっと頬のあたり、黒くしろ」
ハヤテが竹のヘラで、泥をぬりぬり。
俺は完全におもちゃ扱いだ。
「これで色黒の漁師見習いだな」
「おお、見事に誰かわからない。帝? どこの世界の話だ?」
雁丸が頬をつついた。
「見た目は子ども、頭脳は大人。その名は名探偵コ〇ン、じゃなくて安徳!」
なあーんて言っても、雁丸は幕末からの転生者、知るはずもない。
ハヤテにいたっては、俺が転生者であることも頭脳は大人ってことも知らない。
知らせたって「狐がついたんじゃない? バカなこと言ってら」と笑われるのがオチだ。
もう、今の俺は、完全にただの漁港の子どもだ。
俺たち三人は、ハヤテの機転で知り合いの漁師の協力で、安徳死亡説を打ち立てた。
その褒賞でみんなは少しずつ潤った。
そのつてで、小さな小屋を借りて新生活が出発した。
漁師たちは手が足りない。
ハヤテの両親だけじゃなく、彦島の住人の何人かは、平家の一門扱いにされて殺された。
今の漁師たちは、手がない。
平家を捕らえてもらえる褒賞よりも、協力して漁に出て魚を売る方が儲かるのだ。
もちろん、干物づくりも手がいる。
俺たちはハヤテの仲間ってことで、思ったよりすんなりと受け入れてもらえた。
まあ、それでもよそ者は信頼されないものだから、働きで信頼を得たいところだ。
――漁師の仕事は、早起きから始まる。
朝焼けの港は潮の匂いでむせそうだ。
漁から帰ってきた船から魚と網を下ろす。
そして、網の痛みがないか調べ、穴があったら補修するのが、俺たち見習いの仕事だ。
網は海水を吸ってめちゃくちゃ重い。
「おりゃっ!」と声を出して引き上げるけど、両腕はすぐにパンパンになる。
だって六歳男児、貴族育ちの肉体だもの。
ハヤテは片手で軽く引き上げて、俺を笑った。
「まだまだだな、安徳……そう言えばおまえ、……名前どうする?」
「……名前?」
「帝なんて呼んでたら命がいくつあっても足りねえ。安徳もまずいだろ。……よし、今日から……安介だ」
「……あんすけ?」
雁丸が口を挟んだ。
「ああ。良いのではないか? 安は落ち着いて生きろって意味。戦なんかに振り回されるなと」
「だろ? じゃあ安介! ほら、そこの魚、さっさと運べ!」
俺は安介
見た目は子ども、頭脳は大人。その名は名探偵コナン、じゃなくて安介!」
ーーそうそう、紅い衣は源氏に引き渡された。
でも、雁介の持ってきた風呂敷包みの中にはもう1枚アゲハチョウの刺繍のある紅い衣があった。これは草薙剣とともに大切に保管してある。
俺たちの小屋の敷物の下に、穴を掘って隠し、その上にまた土をかけてしっかり固めてあるんだ。
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