21話 もういい!ちゃっかり生きてやる
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
港から少し外れた細い砂利道。
俺とハヤテは、人目を避けるように歩いていた。
――腹が減った。
潮風に混じって、なんだか血の匂いがする。
嫌な予感しかしない。
「……止まれ」
ハヤテが低く言った。
俺の腕をつかみ、生垣の影に押し込む。
目の前の曲がり角から、甲高い笑い声と荒い足音が近づいてくる。
やがて、数人の男たちが現れた。
粗末な鎧を着た武士、手に槍や弓。
後ろから縄で引かれているのは――痩せこけた下級武士だった。
まだ若い。顔に泥がこびりつき、肩口には血が滲んでいる。
目が一瞬、俺と合った。助けを求めている。
(……やめろ、見るな)
心の中で自分に言い聞かせる。でも、視線を外せなかった。
「こいつ、間違いなく平家方だな」
「言葉づかいでわかる。ここらの言葉じゃねえ。農民のふりしても無駄だ」
武士たちは笑いながら、男の髷を引っ張る。
縄は乱暴に引っ張られた。
男は地面に膝をつく。
背筋がぞくりとした。これはもう――首実検に送られる流れだ。
源氏の武士の前で、名前などが明らかにされ、平家の者だとわかったら、首を斬り落とされる。
(……助けなきゃ)
心のどこかでそう思った。だけど、俺には剣も槍もない。
戦える腕もない。ただの子どもの体で飛び出しても、真っ先に首を取られるだけだ。
俺の肩を、ハヤテがぎゅっと掴んだ。
「関わるな。見なかったことにしろ」
その声は低く、しかし揺るぎなかった。
――その瞬間、脳裏に浮かんだのは、俺が死ぬ姿。
壇ノ浦で沈む自分の姿。
波に飲まれる苦しさ。
平家再興だの帝としての責務だの……そんなもの、死んだら全部終わりだ。
(……ダメだ。俺は死ねない。生き延びるんだ。どんな形でも)
「ハヤテ、俺……ちゃっかり生きる。
自分さえよければいい!」
――醜い考えだとわかってる。
それでも、生きたい。死ぬのは嫌だ。
武士たちは下級武士を引きずり、港のほうへと消えていく。
砂利がざらりざらりと音を立てた。
血の跡が細く伸びていく。
――俺は何もできなかった。
曲がり角の向こうから、笑い声と罵声がまだ聞こえる。
そのたびに、胸が小さく軋んだ。
(もう、平家再興なんて……無理だ)
あの男のように捕まって、首を取られるだけだ。
ならば――生き延びることだけを考える。それが、俺に残された唯一の道だ。
ハヤテは何も言わず、ただ前を歩いていった。
俺は、その背中を追いながら、自分の手のひらが汗で湿っていることに気づいた。
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