1話 目覚めたところは平安絵巻
源平合戦は平安時代。貴族の世の中に武士が台頭してきた。その理由は‥‥・地方の生活にあったと思う。
「お覚めになられましたか、安徳さま?」
目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がるのは鮮やかな紅い布、黄緑の布、黄色の布。
その向こうから、やさしく顔をのぞかせたのは、小柄な美しい女性だった。
「……ここは……」
のどを通る声がやたらと高い。見れば、小さな手。着ているのは白い衣。
(うそだろ……? 本当に……転生したのか……)
混乱を必死に押し殺しながら、頭の中で状況を整理する。
ええっと、俺の名前は赤星勇馬。
ブラック企業に勤め、猫を助けようとして死んだ。
神様(?)から「次は安徳天皇として生きなさい」と告げられ――。
「安徳さま?」
……安徳さま?! うわあ、まじか!
俺は高校時代に「日本史クラブ」という超地味なクラブに所属していた。
学園祭では、歴史オタク女子の言うがままに「平家物語」の展示を作った。
あの時の展示で作った壇ノ浦の場面。
ミニチュアの船におばあさんと幼い安徳天皇を乗せた。
「海の下にも都がありますよ」とおばあさんのセリフを吹き出しに書いた。
その程度の、軽く日本史をさらっただけの俺が安徳天皇?
ジョーダンじゃない。
もうすぐおばあさんに抱かれて死ぬんだよ。
――死にたくない。
俺は二回も死にたくないんだ。
未来の知識と、努力と、そして神様チートで何とかならないだろうか。
ブラックな日々を思い出した。
あの時の、みじめさに比べれば、……俺、天皇だろ?
「よし! やったるわ!!」
俺は起き上がった。
布団の上に立った。
――俺は、壇ノ浦の海には沈まない。
――平家の滅亡も、歴史の運命も、俺が変えてみせる――!
ガッツポーズを決めた!
「おやおや、安徳様。元気いっぱいにお目覚めですね。
さあ、わたくしと行きましょうね。
おいしいおやつの時間ですよ」
さっきの美しい女官が手を取ってくれた。
――うひゃ、いいかもしれない!
そうだ。安徳天皇は数えで8歳。現代人だったら、6歳男児だ。
わたくしは、良い香りのする女官に連れられて広間に行った。
室内には香が焚かれ、簾の向こうでは琴の音がゆるやかに流れていた。
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