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12話 彦島でみんな腹ペコ 魚屋ハヤテ降臨

ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。

2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。


~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~

波の音は、腹の鳴る音に似ていた。

いや、逆か。

腹の鳴る音が、波に似ているのだ。


平家の兵糧が少ない。屋島から志度に渡り、兵糧を得た。

しかし、壇ノ浦についてみると、兵糧を乗せた船が到着しない。

あの嵐の中、重い荷を運びきれず、沈没してしまったのか、

はたまた、逃亡してしまったのか、寝返ったのか、……わからない。

GPSもないし、通信手段もない。

あるのは信じるという気持ちだけ。


黒猫クロエに聞いても、「その情報はどこにもないニャ」と冷た。。


とにかく食べ物がないという事実。

貴重な米を薄い粥にしてみんなで分け合っている。


女たちは、荷物の整頓に忙しい。

大事な衣や扇が海の水につかってしまった。

衣をほどいて、真水で洗って板の上で乾かし、また縫うという

途方もなく時間のかかる仕事をやっている。

二位の尼や徳子、また一族の貴族の女たちも女官に交じって作業をしている。


俺は雁丸と一緒に行動しているので、過保護な心配はされなくなった。

「おばあさま、お母様、雁丸と剣術の稽古をいたします。

その後、少し遊んできます」

これで、良いのだ。


浜に出てみた。

平家の船。500艘と言われているが、それほどは無いように思えた。


雁丸に教わるのは、新選組、沖田総司の流儀である 天然理心流だ。

重心を低く保ち、いつでも踏み込める姿勢を取る。

高く振りかぶらず、小さく速い動きの素振りをする。

そして、突きの練習。


地味なトレーニングを行った。

そして、少し休んでもう1周。

最後は「ありがとうございました!」の礼で締める。


雁丸と浜を歩いた。

平家の船の墓場のようだった。

「すげえな……」

折れた帆柱

裂けた帆

船べりに刺さったままの黒い矢

焦げた船体

男たちが修理しているが、まだまだこの状態じゃ使えない。


「だいたい、かいが無くなっているものもある。

この状態で、よく彦島までたどりついたな」

雁丸が船体を撫でた。


「船体の割れたら水が入り込むよね。沈んでしまったのかな」

「あの嵐だったからな。俺たちの乗った唐船は大型で一番安全だったはずだ」

「到着しない兵糧船も、沈んでしまったのかな?」

「そうかもしれないな」

「お腹が空いたよーーー!」

いきなり6歳児になってみた。

雁丸はまた「ちっ」と言って、先を歩いた。


俺たち貴族の朝ごはんは米が泳いだ雑炊だった。

薄い塩味だが、まあうまかった。

「空腹は最高のソース」とはよく言ったものだ。

一人ひと椀、お代わりは無しだった。


浜では、兵士や水夫の朝飯前だった。

台所番の男たちが大鍋で作っている。

兵士たちの眼差しは、空っぽの椀より空っぽだった。


湯に浮かぶいりこ(干したいわし)のかけらを、祈るみたいに見つめて、少しずつ少しずつ大事に飲み下す。

食べるというより、口からの点滴だ。


数日前の屋島なら、御膳はいつも整い、米は白く、汁は澄み、味は「ある」のが当たり前だった。

いまは……その当たり前が、海霧みたいにどこかへ消えた。


兵士たちの気の毒な朝飯を通り過ぎ、船の観察をした。


「……走れねえ船が増えたな」

雁丸が船べりに手をつきポンポンと叩く。

かじも、予備が足りねえ。人手もだ」


ーー人手。人の手が足りない

田を耕す手、網を引く手、木を削る手。

戦はいつも、手を奪っていく。


「安徳様、後ろへ。危ない!」

 雁丸の叫び。


雁丸は俺の前に立ちふさがった。

低く構えている。

ーーまずい、相手が殺される!


小舟の横に、小柄な影が立っていた。

少年。陽に焼けた頬、潮風に焼けて金色になった髪。

肩から提げた籠には、銀色の魚がぎゅうぎゅうに光っている。

魚の輝きは、飢えを映しだす鏡だ。


「へーい、平家の皆さま方。今朝の獲れたてだよー。あじいわし、ちょいとすずきの子。塩もあるよー。安くはないけど、腹は膨れる」


歯を見せて笑う。


「お主、何者だ?」

雁丸が眉を寄せる。


「おいら、ハヤテ。ここの村の漁師の子だ」

胸を張って名乗った少年は、館の方角をちらりと見てから、岬の向こうを指さした。


「あっちの入り江に住んでるんだ。父ちゃんも母ちゃんも漁師でさ。毎日、魚と波と一緒に生きてるんだ」


潮風に髪が揺れ乱れた。日焼けした顔は自信に満ちていた。


 ハヤテ――名前も海風っぽい。

「銭、あるだろ? こいつら、うめえぞー」


雁丸が俺をかばいながら、叫んだ。

「おーい、台所番、魚屋だ」


平家の台所番が手を拭きながらやってきた。

「値は?」

「籠ぜんぶで、米一升か宋銭三十」

「米はやれない。宋銭二十八でどうだ?」

「いいよー」


台所番は、ほんの少しだけ目を細め、腰の袋から銭を十四枚出した。

「半分だ。残りは味を見てから」

「いいよー。半分のお代は、明日ください。魚のシゴを手伝うよ」


料理番は浜の調理場にかごを運んだ。

ハヤテの手が、魚の腹を裂いてゆく。

ざく、ざく。ためらいがない。

台所番が鱗を取る。銀の雨が散るようだ。


籠いっぱいの魚は、大鍋に入れられ、少しの雑穀と一緒に雑炊になった。

塩も振り入れられ、いい匂いが立ち込めた。


――俺は、いつからこんな匂いに救われるようになったんだろう。


仮御所での天蓋てんがいの下の香じゃない。

焚いた白檀びゃくだんでもない。

ただの新鮮な魚の匂い。

それが、俺には御札みたいに効く。


大鍋はぐつぐつ煮え立った。

侍たちが椀をもって並ぶ。

台所番は、どの椀にもしっかり魚の切り身が入るように取り分ける。


――いい人だなあ。

雁丸が毒見をした。


「安徳さま、食え。骨に気をつけろ」

椀が差し出される。湯気が頬を撫でる。

噛む。口の中に海が満ちて、喉が勝手に飲み込む。


「……うまーい!!!!!!!!」


「だろ?」

ハヤテがにかっと笑う。

「俺の魚は美味いのさ。どこの漁師にも負けやしねえ。父ちゃんが大事に獲ってきた魚さ。傷がないから新鮮なんだ。」


 雁丸も黙ってひと口、そしてずずっとすすった。

「……悪くない」


ハヤテが口を挟む。

「最高って言えよ」

「漁師のくせに図々しい」

「漁師はな、生き残るために図々しくなるのよ。そうじゃないと、今頃みんな死んでるよ」


ハヤテは肩に空の籠を背負って、手を大きく振った。

「平家の皆さーん、 また明日来ます。魚を買ってくださいね。

明日は干物も持ってきましょうか? 日持ちしますよ。

父ちゃんが網かけて獲る、母ちゃんが干す。おいらが運ぶ。三人でやってる魚屋でーす」


「おめえ、怖くねえのか。平家の浜に上がるのは」

雁丸が問う。


ハヤテは一瞬だけ真顔になる。目の奥の波が、不意に深くなる。

「怖いさ。でも腹が鳴る音のほうが、もっと怖い。……じゃ、また」


小舟をすいっと押して乗り込んであっという間に行ってしまった。


女たちが大鍋から小鍋に汁を移している。

飢えた侍たちを救った魚雑炊は、重臣や女人にも知られてしまったようだ。

 

――王は民をもって天となし、民は食をもって天となす

宗盛に貰った「孟子もうし」に書いてあった。


国を治めるとは民を掌握することであり、

その民が最も大切だと考えているのが食である。


平家の侍たちは腹ペコだ。

知盛の領地だから、もっと米が食べられるかと思っていたが、そうではなかった。 


知盛の領地ってどんなんだ?

ーーちょっと見てみたくなった。


● 黒猫クロエの情報ノート〇宋銭(そうせん)


「安介ニャ、宋銭って知ってるかニャ?

これは中国・宋の国(960〜1279年)で作られた銅の貨幣ニャ。日本では和同開珎のあと国産の銭づくりが途絶えてしまったから、この宋銭が大量に入ってきて、庶民から武士まで広く使われたんだニャ。」


● 形


円形で、真ん中に四角い穴が開いているニャ。


この穴に紐を通して「百枚」「千枚」と束ねて使ったんだニャ。


●書かれている文字


銭の表には鋳造されたときの 年号 が刻まれているニャ。

例……「政和通宝」「元祐通宝」「崇寧通宝」など。


字は縦書きや横書きで、見分けると年代がわかるんだニャ。


●材質


主に 銅 で作られていたニャ。


時には鉛や鉄を混ぜたものもあったけれど、やっぱり銅が基本ニャ。


● 清盛との関わり


平清盛ニャ! 宋との貿易を大いに進めた人物だニャ。


博多や瀬戸内を拠点に日宋貿易を行い、宋銭も大量に輸入されたんだニャ。


清盛の時代から、日本は「米や硫黄・木材」を輸出し、「宋銭や絹」を輸入するようになったニャ。


つまり宋銭は、ただの小銭じゃなくて、清盛がひらいた貿易の象徴なんだニャ。

庶民の買い物から武士の給料、年貢のやり取りにまで広がって、日本の経済を大きく変えたんだニャ。

まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!

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13話目まで、何一つ知識を活かせてない主人公 このまま無能バカ主人公のまま突き進んでいくのがなんとなくわかった もう萎えたわ、読む気失せた
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