11話 彦島到着
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
船はようやく彦島の浜へ滑り込んだ。
東の空がほんのり白み、波の音に混じって人々の足音と指示の声が響く。
港と呼ぶにはあまりに小さな入り江だが、松明が何十本も焚かれ、侍や漁師たちが慌ただしく荷を運んでいる。
「おーい、獲れたての魚だよー! 干物もあるよー!」
漁師たちが大声を張り上げる。
その元気さに、疲れ切った女たちの顔にもほっとした表情が浮かぶ。
「安徳様、こっちだ」
雁丸が俺を舟から降ろす。
いつもため口なのに、安徳《《様》》と呼ぶのは周囲への気遣いだろう。
足は濡れて冷え切っている。
夜通しの航海の疲れがどっと押し寄せてきた。
館の代わりとなる仮の御所は、浜から少し離れた丘の上にあった。
板壁も屋根もまだ新しい。
木造建築なので、隙間風が入る。
雨露はしのげそうだ。
庭にはすでに紅旗が掲げられ、そこへ重臣たちが次々と集まってくる。
宗盛、知盛、教経――顔ぶれは屋島で見たままだ。
戦と船旅を経験して、平安貴族でもあり武士でもある平家の一族が、人間として好きになった。
同じ時を過ごすということで絆が深まるんだなと感じる。
もちろん、平家の女たち、雁丸・黒猫クロエも大好きだ。
俺の人生でこういう思いは、これまでなかった。
子どもの頃も、大人になっても、「やらされている感」を引きずっていた。
自分の意志で、何かのために何かをやるってことが無かったように思う。
今は、平家の滅亡を救いたいという気持ちがあふれ出てくる。
歴史の中で悲劇的に死んでいく一族を、俺は救えるのか?
俺の努力次第ってことなら、いくらでもする。
この前みたいに、現代知識を得ておきながら活用できないなんて失敗は繰り返したくない。
――俺は平家を滅亡から救う。さあ、行こう!
決戦まであと29日
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!