107話 小十郎・次郎が幽霊に怯える
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
冷たい風が吹きつける。1186年1月(太陽暦で3月)青景の牧のはずれ。
小さな土饅頭《土饅頭》(墓)の前に俺とハヤテは膝をついていた。
ここに眠るのは、牛飼いタケルの父。
俺たちが出会った時にはもう、命を奪われていた。
その墓に覆いかぶさるようにして、一時間以上も泣きながら詫びている者たちがいた。
小十郎と次郎。かつて槍と鎧をまとっていた落人狩りの侍だ。
「……赦してくれ。頼む、この通りだ」
小十郎が手を擦り合わせる。
「どうか成仏してくだされ……悪かった。兄貴が悪かった。……おいらは辞めろって言ったんでさ」
次郎の声は震えていた。
少し離れた場所で、タケルと母のおつねさん、木こりの権作が黙って見つめていた。
「どうか赦すと言ってくれ……!」
小十郎と次郎が涙で顔を上げる。
だが――タケルもおつねさんも何も言わなかった。
ただ黙って目を伏せた。
沈黙が胸に重くのしかかる。赦されない。どれほど願っても。
木こりが斧を握りしめ、今にも振り下ろさんばかりの顔をしている。
その時だった。砂利を踏む足音が近づいてきた。
現れたのは、煤にまみれたたたら衆。先に逃げてきた四人。その後ろに白髪の長老。さらに、顔に泥を塗った母・おさえと、腕に抱かれた赤子のあや。そして、火の里で雁丸に救われた子ーーリク。
「お前たちが落人狩りか……火の里を襲ったことを、赦さぬ!」
長老の低い声が冬の空気を震わせた。
小十郎は慌てて尻もちをつき、必死に叫ぶ。
「俺たちじゃない! 火の里を襲ったのは、俺たちじゃねえ!」
「嘘をつくな!」
太助が割れそうな声で叫ぶ。
「嘘じゃ……ない!」
小十郎は涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
「俺たちは、どこへ行っても言われるんだ……女を殺したとか、腹の子まで殺したとか……やってねえのに! じいさんを殺しただと? 松茸を独り占めしたいからだと? 覚えのないことばかり! そして、夜には《《幽霊》》が出るんだ。赦さないって俺につきまとう」
次郎も声を張り上げた。
「本物がいるんだ! 俺たちとは別の、本物の落人狩りが!」
たたら衆が襟首をつかんだ。
殴りそうな勢いだ。
「言い逃れする気か?」
「嘘つきが!」
「やっちまえ!」
その時、九郎が口を開いた。
「……聞いたことがある。嘉万の里で。
……鎌倉から来た落人狩りのことだ。平家の隠れ場所を潰すために、家を次々に焼き払う……あまりに酷いと噂になっていた」
「そうだ、あんたは分かってくれるな!」
小十郎が九郎の手を握る。
「俺たちじゃない。それなのに、どこへ行っても斬られそうになる。宿も飯も水ももらえねえ……俺たちだって、ひどい目にあってるんだ!」
そして墓に額をこすりつけた。
「牛飼いを殺しちまったのは、この通り、俺だ……! けど火の里は襲っちゃいねえ! 本当に信じてくれ!」
冷たい風が吹き抜ける。
赦しを請う声と、赦さない沈黙。
そして――火の里を焼いた「本物の落人狩り」の影。
真犯人はどこにいるのだろうか
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
ブックマークしていただけると、とても励みになります!
リアクションやコメントも大歓迎。
感想をいただけたら本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!




