105話 俺たちは青景の里の未来を描いた
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
翌朝。
地頭屋形の広間は、人の熱気でむせかえるようだった。
地頭の家人たちと、火の里から逃げてきたたたら衆――赤子と子供を含めて8人の顔が板の間に並ぶ。
中央には木の枝で描かれた即席の図。皆が膝を突き合わせ、息をのんで見つめていた。
親父さん――藤原秀通が、低く、腹の底から響く声で切り出した。
「ここが地頭屋形だ。そのふもとに……鍛冶場を構える」
言葉が落ちた瞬間、広間の空気がざわめいた。
長老が腕を組み、深い皺を刻んだ顔をしかめる。
「……落人狩りどもに見つかれば、火の里の二の舞だ。焼かれて灰になるやもしれんぞ」
親父さんは眉をひそめ、たたら衆に問いかけた。
「鍛冶場は煙や音がでるものか? 街道からでも聞こえるものなのか?」
長老はすすけた顔を上げ、ゆっくりと頷いた。
「確かに……鍛冶の火は匂いと煙を放つ。また、鉄を打つ時は――トンテンカントン、里じゅうに響き渡る」
その言葉に、場が重く沈む。
……だからこそ、俺は立ち上がった。
「地頭の子、安介です!」
一斉に向けられる視線。子どもの出しゃばり、とでも言いたげな目が並ぶ。
けれど俺は退かない。
「皆さんが来る前に……考えていたことがあります!」
木の枝を手に取り、図の横に四角を描き足す。
「鍛冶場の前に――作業小屋を建てましょう」
ざわ、と人々の顔が動く。
「その小屋では、木を割る、炭を焼く、縄をなう、竹かごを編む……。日用品や燃料を作る場所です。鍛冶場は、その奥に隠す!」
たたら衆が目を見開く。
「さらに、その隣に醍醐を煮る小屋を建てます。北側、井戸の近く。衛生のためです」
俺は枝で指し示した。
「外から見れば、ただの作業場。中では、鉄を打つ。二重構えです!」
息を飲む音が響いた。
「音の対策として、防音の壁を。さらに――青景の東西の関所に木戸を立て、落人狩りが来たら歓迎の行事として剣舞を披露する。その間に知らせ隊が走り、親父さんに報告! 鍛冶場はすぐ閉鎖、たたら衆は山に逃げ、隠れ館に潜む。危険が迫れば太鼓を打って、さらに奥の洞窟へ!」
俺は一気に言い切り、息をついた。
「剣舞のあとには、木刀での立ち合いも良し。武士に力を見せつける。そして、作業場を案内するんです。縄をなう手、醍醐を煮る湯気――それを見せれば、平家再興の疑いも薄れるでしょう。美味い醍醐と酒で武士どもを酔わせれば、こっちのものです!」
「酒も造らねばな」
雁丸がぼそっと呟き、場にどっと笑いが広がった。
俺はさらに枝を走らせる。
「そして、武士の詰所と牛馬小屋を表に。表向きは《職人を守る兵舎》、実際には《鍛冶場を守る部隊》の拠点になる!」
長老が目を細めた。
「……なるほど。表は百姓や木こりの顔、裏で鉄を打つか。二重の構えよの」
俺は指を折りながら、言葉を重ねる。
「ただし! 火事対策に水場を確保すること。資材の搬入経路をはっきりさせて無駄をなくすこと。煙の抜け道を工夫すること――これは絶対です!」
親父さんがじっと俺を見た。
「……子どもの言葉とは思えんな。まるで軍師のようだ」
その瞬間、柱の上で尻尾を揺らしていたクロエが、にやりと笑った。
「ニャフフ……企業戦士仕込みの知恵、ここで光るとはニャ」
笑いとざわめきの中で、親父さんが枝を握りしめ、図の中央に力強い線を引く。
「――鍛冶場を築く! 表向きは作業所、裏では鉄を打つ。我らの生き抜く拠点とする!」
ーーその声が広間を震わせた。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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