104話 新しい仲間たち
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
赤子に沸かした牛乳を届けに、俺はハヤテと雁丸と一緒に土間へ入った。
赤子は、まだ夢の中。小さな胸がかすかに上下しているのを見ると、それだけで胸があたたかくなる。
「うちは、さえと申します。赤子はあや、女の子なんです」
若い母親は深々と頭を下げた。
その目は赤く腫れていて、逃げ続けてきた苦労が一目でわかる。
「逃げ回っているうちに……うちの乳が出なくなってしまって……。あやが目覚めたらすぐに飲ませます。……本当に、本当にありがたい。どうやってお礼をしたらよいか……」
涙で声が震える。
俺は、言葉に詰まった。こういう時は――そう、ハヤテだ。
目だけで合図を送る。
すぐにハヤテが一歩前へ出て、にかっと笑った。
「お礼なんていいってことよ。親父さんが受け入れたからには、俺たちはひとつの家族だ」
ハヤテの声はいつも不思議だ。
聞くだけで、肩の力が抜けるような温かさがある。
「おさえさん、青景の里には牛がたくさんいる。いつか落ち着いたら、牛乳を煮るときに、かき混ぜる手伝いをしてくれたらいい」
「……かき混ぜる、手伝い……?」
さえさんが目をぱちぱちさせる。
ハヤテは胸を張った。
「そうだ。美味い醍醐をつくるんだ。里人ならだれでも醍醐を食べられるようにする。長老さんだって、きっと元気になるさ」
醍醐――その言葉に、場の空気が少しやわらぐ。
まるで未来の希望をひとさじ、口に運んだかのように。
雁丸が横で小さく鼻を鳴らした。
「……お前は本当に、よく口が回るな」
けれど、その口ぶりに咎める響きはなく、むしろ笑っているようだった。
俺も、思わずうなずいた。
戸の向こうで物音がした。
母親――おさえは、反射的に赤子を強く抱き寄せた。
もしや、また落人狩りが……?
張りつめた空気の中、戸が軋む音を立てて開いた。
雁丸が刀に手をかけた。
現れたのは、煤と汗にまみれた四つの影だった。
先に逃げ延びてきた、たたら衆の男たち。
彼らは土間に崩れ落ち、顔を地面にこすりつけた。
「……長老。すまねぇ……!」
「俺たち……先に逃げちまった……助けたかった、だが……!」
声は震え、悔恨に満ちていた。
火の海の中で仲間を置いてきた、その罪の意識が彼らの肩を押し潰しているようだった。
長老は黙して見つめる。
背筋はまっすぐ、しかし瞳の奥に深い影が揺れていた。
やがて、長老は重く口を開いた。
「……いいんだ」
その一言に、四人の肩がびくりと震える。
「生きて戻った。それだけで十分だ。命を絶やせば、火も絶える。……お前たちは、鍛冶の火を繋いだのだ」
おさえが赤子を抱きしめたまま、涙をこぼしてうなずいた。
「……おそらく、まだ山に十人は残っている。あの炎をかいくぐり、どこかに隠れているはずじゃ……」
長老は天井を仰ぎ、深く息を吐いた。
「どうか……どうか無事に、この青景へたどり着いてほしい……」
赤子が小さく伸びをした。
目を開け、辺りを見回すとまた眠りに落ちた。
その寝息だけが、張り詰めた空気をやわらげる。
四人のたたら衆は地に額を押しつけたまま嗚咽し――やがて、互いの肩を抱き合った。
その姿を、俺とハヤテは息を呑んで見守ることしかできなかった。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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