100話 俺たちの村に落人狩りが来たらどうするか?
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
重苦しい沈黙の中、俺は膝をつき、みんなの顔を見回した。
「……俺の策を聞いてほしい」
親父さんが顔を上げる。
雁丸も腕を組み、黙ってうなずいた。
「落人狩りは、平家の残党を根絶やしにするって名目で暴れてる。
小十郎と次郎の2人組は頼朝公の命を都合よく解釈して刃物や牛を奪った。
そして奴らは広い領地を安堵された地頭・厚東氏の家臣。
厚東氏も親父さんと同じ時期に任命されたので、まだ領内も落ち着かないし家臣の把握も不十分だろう」
話しながら俺は企業戦士だった頃を思い出した。リーダーが変わる。スタッフは新リーダーの方針を理解して行動するとは限らない。特に変わったばかりの1年は……
人は従来通りのやり方をすぐに変えることはできないのだ。小十郎達の振る舞いが、厚東氏の命令とは限らない。
そうは言っても、小十郎達を斬ってしまえば,不要な争いの火種をつくることになる。
「……戦わずに、守る方法を考えるんだ」
「どうするんだ?」
ハヤテが息をのんで訊く。
俺は指を折って答えた。
「まず――台山の牧を広げる。牛はもう山の上に移した。あそこなら簡単に奪えない」
「次に、たたら職人たちを匿う。火の里を捨てて青景で鍛冶を続けてもらうんだ。表向きは田畑の耕作。実際は鉄の道具を作る。俺達の里は,力仕事の手が足りない。鉄の加工で牛に引かせる鋤や一振りでよく切れる鎌を作ってもらえば、この人数でも農作業ができるんじゃないかな」
ミサが手を打った。
「なるほど……鍛冶場は納屋に偽装すればいいね。納屋の奥に秘密の鍜治場をつくって、ちょっとやそっとでは見破られないようにする」
「そう。そして――」
俺は深く息を吸った。
「落人狩りがまた来た時は、地頭屋形に連れてくる。誰かの家などに向かう前に丁重にお連れするんだ。
そして、この里の作法として、槍などの武器を預かる」
そして、堂々と頼朝様からいただいた地頭の任命書を見せる。
『ここは鎌倉殿に任じられた地頭が治めている。平家の残党など匿ってはいない』と親父様が言う。
トラさんが腕を組み、にやりと笑った。
「言葉で押し返すってわけか」
「うん。でもそれだけじゃない」
俺はクロエをちらりと見た。黒猫は得意げに尻尾を立てた。
「もし奴らが強引に押し入ってきても、里人が一斉に普通の暮らしを見せればいい。
籠を編み、縄をなう。牛の乳を搾り、醍醐を煮る。
そして醍醐をふるまう。
俺たちの里をつぶしたら、これはもう二度と食えないぞって」
広場にざわめきが走った。
親父さんは目を見開き、やがて深くうなずいた。
「なるほど……醍醐で里を守る。それが安介の策か」
雁丸は薄く笑った。
「ふん。戦わずして勝つ……奇策といえば奇策だ」
ハヤテが肩を叩く。
「いいじゃん! 醍醐を食わせたら、絶対また食べたくなるから」
俺の策に、みんなの顔が明るくなりかけていた、その時だった。
「……そんなにうまくいくもんか!」
低い声が割り込んだ。
振り向くと――そこに立っていたのは景清だった。
つい数日前まで寝たきりだったのに、今は背筋を伸ばし、鋭い目で俺を射抜いている。
「槍で突いてくるかもしれん。甘い! 甘すぎる!! 子どもの考えよ!」
ざわっ、と人々が息をのむ。
景清は一歩前へ進み出て、声を張った。
「皆は雁丸に武術を学び、自衛団を作るべきだと思う。
青景の西と東に関所を作り、奴らが来たら派手に剣術の稽古をして見せろ。
雁丸のような剣を見たら、誰でも震え上がる。
自衛団が武器を預かって、屋形へ堂々と連れてくるんだ。続きは安介の考え通りにすればいい」
雁丸は目を細めて景清を見た。
「……面白い。俺の剣を見せるだけで退くなら、それも手だな」
里人たちはどよめいた。
「剣で守るのか……」
「醍醐で懐柔するのか……」
親父さんは両腕を組み、しばし黙考した。
「……安介の策は“心を和らげる道”。
景清の策は“力で怯ませる道”。
どちらも一理ある」
俺はぐっと拳を握った。
「戦うだけじゃ守れない。だけど、話すだけでも守れない。
――だから、両方やるんだ!」
景清と目が合う。
彼の鋭い瞳に、一瞬だけ笑みが浮かんだ気がした。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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