98話 雁丸はひとり里を出た
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)。
通勤途中で猫を助けようとして命を落とした――その結果、神様から授かったのは「スマホが使える」というチート能力。
転生先は、なんと壇ノ浦で入水する直前の安徳天皇!?
優雅な平安貴族の暮らしを味わいつつ、同時に目にするのは、当時の庶民が背負う悲惨な現実。
「二度目の死だけは、絶対に避けたい!」
ブラック企業よりはマシなこの世界で、俺は未来知識と努力を武器に全力で生き抜いてやる――!
夜――。
雁丸は馬の背にまたがり、ひとり里を出た。
月明かりに照らされたその横顔は、鋭い光を宿している。
「……火の里」
かつて鉄を打ち、刃物や農具をつくることで名を馳せた集落。
だが今は、落人狩りに狙われ、刃物を奪われ、人が斬られている――。
馬を降り、林を抜けると、焦げ臭い風が鼻をついた。
闇の中に見えたのは、炎の跡。
家の壁が焼け焦げ、屋根が落ちかけている。
雁丸は気配を消し、静かに歩いた。
「……!」
血のにおい。
焼け残った土間の中に、倒れたまま動かぬ男の姿。
近づくと、その胸には槍の突き跡が残っていた。
「小十郎……次郎の仕業か……」
雁丸は刀の柄にそっと触れた。
その時、背後でカサリと音がした。
素早く振り返り、刀を抜く。
そこにいたのは、煤にまみれた子どもだった。
震える手に、折れた鍛冶槌を握っている。
「……生き残りか?」
雁丸は刀を下ろした。
子どもは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。
「親父は……親父は斬られた! あいつらが……小十郎と次郎が!」
雁丸は子の肩を掴んだ。
「安心しろ。必ず伝える。青景に来い。もう一人で怯えるな」
月明かりに照らされた雁丸の剣先が、わずかに震えていた。
戦を知る者の冷徹な目と、ひとりの人間としての怒りが混ざっていた。
「……俺が斬る」
雁丸は低くつぶやいた。
「地頭様を動かす前に、俺が奴らの喉笛を絶つ」
風に揺れる炎の残り香の中で、その誓いは鋼のように固まった。
まだまだ修行中の さとちゃんペッ! です。
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