9話 悪七兵衛景清(あくしちひょうべえかげきよ)のあがき
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
ここは屋島の合戦のど真ん中、海風が耳を切る。
源氏・白旗の船と平家・紅旗の船が入り乱れ、怒号と悲鳴と矢の唸りが交錯する。
的を射抜いた那須与一の一矢で、源氏の船団はどっと沸き立った。
平家の船にはざわめきが広がり、士気が沈む。
――だけど、このままやられてたまるか。
その時だった。海風を裂くような荒々しい咆哮が響く。
「おぉぉぉぉらあああああッ!」
巨体の武者が、波間を蹴って源氏の船へ飛び移った。
漆黒の大鎧、鬼の面を思わせる顔つき。
悪七兵衛景清
――平家随一の剛力無双の猛者だ!
「きたニャ! 『しころ引き』の景清だニャ!」
クロエが俺の肩で興奮して毛を逆立てる。
「しころってのは兜の首周りを守る部分ニャ。それを素手で掴んで、敵兵を海に引きずり落とす荒技だニャ!」
景清は、源氏の武者の兜のしころを片手でガシィッとつかんだ。
その腕の筋肉が膨れ、金具がきしむ音が聞こえる。
「ぎゃあっ!」
敵は兜ごと首を引かれ、あっという間に海へ――ドボォン!
波しぶきが陽光を浴びて銀の粒となり、空へ舞う。
景清は息つく間もなく、次の敵を捕まえ――ドボォン!
三人目も、ドボォン!
「景清、化け物かよ……!」
思わず俺は息を呑む。
平家の兵たちが「おおっ!」と声を上げ、わずかに空気が変わる。
わが平家の赤い旗が誇らしげに見えた。
「でもニャ……これでも潮目は変わらないんだニャ」
クロエの声が、冷たく響く。
義経の攻めは止まらない。矢が降り注ぎ、船上の味方が海に落ちていく。
景清の鬼神のような雄姿も、押し寄せる源氏の白旗の波に飲まれていく。
――負け戦の中の輝きって、
こんなにも眩しくて、切ないものなのか……。
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