第14話 番外編 手籠めとはなにか。
外堀はとっくに埋めておいた。
エレオノーレの実家にも、お坊ちゃまのご両親、両陛下にもあらかじめ話は通してある。
アヒムという男の身辺調査は綿密に行って、実家もちゃんと脅しておいた。
エレオノーレに直接お坊ちゃまがプロポーズしてもよし、なんなら、家同士で話を付けてしまってもよかった。その方が早いし。
なんだかんだとエレオノーレが辛抱強いだの、納得できるまで待とう、だの…
その割には、休みの日には午前中のうちに超特急で公務を仕上げて、いそいそと王立図書館に向かっていたお坊ちゃま…。あっという間に1年たちましたね。
いい加減にしていただきたい。
僕は自分の婚約者と結婚するためにも、早いところお坊ちゃまの婚約を決めて、結婚の日取りも決めて…その翌日には結婚したい。何年待っていると思っているんですか?早く決めて下さい。さっさと婿に行ってください。
辺境伯家令嬢、フロレンツィア。殿下の従姉。
僕が学院の3年生の時に、お坊ちゃまと一緒に学院に入ってきた。もちろん、昔から存じ上げてはいたが。
剣術クラブに入部して、勝ち抜き戦で当時部長だった僕と一騎打ちになった。強かったなあ。
まあ、なんとか勝ったけど。
「ハインツはやっぱり強いなあ」
そう言って笑ったフロレンツィアに、僕は…何もかも持っていかれてしまった。
家に帰ってすぐに、宰相をしている父上に、フロレンツィアと結婚したいと申し出たが…
「彼女はクリストフ殿下の護衛を兼ねているからなあ、卒業するまで待て。いや、殿下が無事に婿入りするまで待て。お前は殿下の秘書官兼執事で詰めろ。第二王子がさっさと隣国に行くことになったから、今度はクリストフ殿下を支えるんだぞ?」
「……」
あれから3年だぞ?
フロレンツィアを呼んで、いかにエレオノーレの婚約者、アヒムというやつがクズかを説明し、それが何一つエレオノーレのためにならないことを根気よく教えた。
「しかもな、その男、今付き合っている男爵令嬢に手を出してな、」
「手を出す?暴力はいかんな。」
「……そうじゃないよ、え、と、手籠めにした?」
「格闘技系か?」
「……そ、そうじゃないよ…じゃあ、フロレンツィア、僕の膝に乗ってごらん。」
「ん?こうか?」
…そう言われて、男の膝にまたがる令嬢がどこにいるんだ!!!どこに!!!
ふつうは…こう、恥ずかしそうに…僕の膝の上に横に、そっとすわるんじゃ…
僕の膝にまたがったフロレンツィアは、何が始まるのかとワクワクした顔で僕を見ている。おろした銀色の髪、緑の瞳が僕を見つめる…がんばれ、僕の理性。
…キスぐらいはいいかな…
フロレンツィアの頬に手を添えて、キスをしたら、さすがに止まらなくなってしまった。そのまま彼女の腰を引き寄せて…
「わ、わ、わかった、ハインツ…」
「……」
「て、てごめ、わかった…」
「……」
フロレンツィアはそれ以来、僕を見かけると、真っ赤になって逃げて行ってしまうようになった。
一日でも早く、逃げ切れないように、結婚したい。