【第7話】帰郷への旅と、道中の事件
木々のざわめきが心地よい午後、リュカたちはなだらかな丘の街道を歩いていた。
新緑の香り、鳥の声、そして……三人の聖獣娘の賑やかな会話。
「ねぇお兄ちゃん、ほんとに帰るの?」
「うん。一度、ちゃんと家族にも報告しておきたいしね。仲間が増えたって」
リュカの言葉に、エルミナが目を輝かせる。
「会いたい! お兄ちゃんの家族、どんな人たちなの?」
「んふふ~、じゃあその時は、“未来の奥さんです”って挨拶しちゃおうかな」
「ちょっ、ユノ!? それはわたしが言うつもりだったのに!」
「えっ、それ私も候補に入ってたはずだけど!?」
「いやいやいや、なんで挨拶が“奥さん枠”前提なんだよ……」
そんな調子で、旅路は終始イチャイチャモードだったが――
突如、遠くから甲高い悲鳴が木霊した。
「きゃああああっ! 誰かっ、助けてえぇ!」
緊迫した声に、空気が一変する。
「お兄ちゃん!」
「行こう!」
リュカは頷き、魔力の流れを整えながら走り出す。
すでに戦闘態勢に入ったアウラとユノが先行し、エルミナはリュカのすぐ後ろに従う。
◆
雑木林の開けた一角。
豪奢な装飾が施された馬車が囲まれていた。
王妃らしき貴婦人と、その隣にいた王女が、護衛に守られながらも完全に包囲されている。
「いい獲物が入ったじゃねぇか……姫も王妃も、まるごといただきだ」
黒ずくめの男たちがニタニタと笑い、剣を向ける。
「数は多いけど……あれ、召喚士の部隊じゃない。剣士や魔術師も混じってないわ」
アウラが低く呟き、雷を帯びさせながら前へ出る。
「アウラ、ユノ。お願い。僕は魔力支援にまわる」
「了解!」
「任せて♡」
アウラが滑るように地面を走り、手にした槍の先から雷が弾けた。
その瞬間、彼女の背中には一対の雷翼が一瞬だけ現れる。
「なっ……なんだ、あの背中の……!?」
一人の盗賊が狼狽しながら振り返ると、ユノの腕が植物の枝に変化し、地面から巻き上がるように彼の足を拘束した。
「ちょ、脚がっ、脚が勝手に……!?」
「自然の力、なめちゃだめだよ?」
ユノは微笑みながら風を操り、宙に浮かせた盗賊をゆっくり回転させる。
「な、なんだコイツら……人間の女じゃねぇのか!?」
「見た目だけで判断するから……こうなるのよ?」
アウラが手を大きく振り、雷撃が空を裂いて落ちる。
その一撃で、三人の盗賊が一瞬にして倒れた。
後方では、リュカが集中しながら二人に魔力を流し続けている。
彼自身は戦わず、あくまで“力を支える者”としての立ち位置だった。
「……癒光、展開。あの兵士、止血しないと……!」
エルミナが傷ついた護衛の傍らに膝をつき、治癒魔法を使って傷を癒す。
彼女の術は穏やかだが確実で、戦闘不能になった兵士たちを次々と安全圏へ退避させていった。
数分後には、盗賊たちは次々と拘束され、リーダー格の男も武器を弾かれ、木の枝に巻かれて身動きできなくなっていた。
「ひぃっ……なんだよ、あいつら……化け物じゃねぇか……!」
◆
戦いの終わった草原。
王妃が深く頭を下げて言った。
「お礼を申し上げます……命を救っていただきました。どうか、王都へお越しください。正式な謝礼を――」
「い、いえっ、たまたま通りがかっただけで……」
リュカは目を泳がせ、背中に冷や汗をかいていた。
(王都とか絶対に面倒なフラグでしかない……)
「……と、とりあえず“行けたら行きます”ので!」
「行けたら……?」
王妃の眉が微かに動いたが、リュカは丁寧に頭を下げると、エルミナとユノを連れてくるりと背を向けた。
「え~、お兄ちゃん、逃げるように立ち去ってる」
「“行けたら行く”って、完全に“行かない”パターンだよね?」
「だって絶対王城とか入ったら書類とか面談とかお付きの人とか……ぜったい長くなるでしょ!」
「うふふ……まあ、そういう“逃げ方”もお兄ちゃんらしいけどね」
かくして、リュカたちは華麗に面倒事をスルーし、再び旅路へと戻っていった。
彼らが助けた一行が、実は“王妃と王女”、
そして相手が“王都で手を焼いていたA級盗賊団”だったと気づくのは、もう少し先のことになる。
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