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【第7話】帰郷への旅と、道中の事件

木々のざわめきが心地よい午後、リュカたちはなだらかな丘の街道を歩いていた。

新緑の香り、鳥の声、そして……三人の聖獣娘の賑やかな会話。


「ねぇお兄ちゃん、ほんとに帰るの?」


「うん。一度、ちゃんと家族にも報告しておきたいしね。仲間が増えたって」


リュカの言葉に、エルミナが目を輝かせる。


「会いたい! お兄ちゃんの家族、どんな人たちなの?」


「んふふ~、じゃあその時は、“未来の奥さんです”って挨拶しちゃおうかな」


「ちょっ、ユノ!? それはわたしが言うつもりだったのに!」


「えっ、それ私も候補に入ってたはずだけど!?」


「いやいやいや、なんで挨拶が“奥さん枠”前提なんだよ……」


そんな調子で、旅路は終始イチャイチャモードだったが――


突如、遠くから甲高い悲鳴が木霊した。


「きゃああああっ! 誰かっ、助けてえぇ!」


緊迫した声に、空気が一変する。


「お兄ちゃん!」


「行こう!」


リュカは頷き、魔力の流れを整えながら走り出す。

すでに戦闘態勢に入ったアウラとユノが先行し、エルミナはリュカのすぐ後ろに従う。



雑木林の開けた一角。

豪奢な装飾が施された馬車が囲まれていた。

王妃らしき貴婦人と、その隣にいた王女が、護衛に守られながらも完全に包囲されている。


「いい獲物が入ったじゃねぇか……姫も王妃も、まるごといただきだ」


黒ずくめの男たちがニタニタと笑い、剣を向ける。


「数は多いけど……あれ、召喚士の部隊じゃない。剣士や魔術師も混じってないわ」


アウラが低く呟き、雷を帯びさせながら前へ出る。


「アウラ、ユノ。お願い。僕は魔力支援にまわる」


「了解!」


「任せて♡」


アウラが滑るように地面を走り、手にした槍の先から雷が弾けた。

その瞬間、彼女の背中には一対の雷翼が一瞬だけ現れる。


「なっ……なんだ、あの背中の……!?」


一人の盗賊が狼狽しながら振り返ると、ユノの腕が植物の枝に変化し、地面から巻き上がるように彼の足を拘束した。


「ちょ、脚がっ、脚が勝手に……!?」


「自然の力、なめちゃだめだよ?」


ユノは微笑みながら風を操り、宙に浮かせた盗賊をゆっくり回転させる。


「な、なんだコイツら……人間の女じゃねぇのか!?」


「見た目だけで判断するから……こうなるのよ?」


アウラが手を大きく振り、雷撃が空を裂いて落ちる。

その一撃で、三人の盗賊が一瞬にして倒れた。


後方では、リュカが集中しながら二人に魔力を流し続けている。

彼自身は戦わず、あくまで“力を支える者”としての立ち位置だった。


「……癒光、展開。あの兵士、止血しないと……!」


エルミナが傷ついた護衛の傍らに膝をつき、治癒魔法を使って傷を癒す。

彼女の術は穏やかだが確実で、戦闘不能になった兵士たちを次々と安全圏へ退避させていった。


数分後には、盗賊たちは次々と拘束され、リーダー格の男も武器を弾かれ、木の枝に巻かれて身動きできなくなっていた。


「ひぃっ……なんだよ、あいつら……化け物じゃねぇか……!」



戦いの終わった草原。

王妃が深く頭を下げて言った。


「お礼を申し上げます……命を救っていただきました。どうか、王都へお越しください。正式な謝礼を――」


「い、いえっ、たまたま通りがかっただけで……」


リュカは目を泳がせ、背中に冷や汗をかいていた。


(王都とか絶対に面倒なフラグでしかない……)


「……と、とりあえず“行けたら行きます”ので!」


「行けたら……?」


王妃の眉が微かに動いたが、リュカは丁寧に頭を下げると、エルミナとユノを連れてくるりと背を向けた。


「え~、お兄ちゃん、逃げるように立ち去ってる」


「“行けたら行く”って、完全に“行かない”パターンだよね?」


「だって絶対王城とか入ったら書類とか面談とかお付きの人とか……ぜったい長くなるでしょ!」


「うふふ……まあ、そういう“逃げ方”もお兄ちゃんらしいけどね」


かくして、リュカたちは華麗に面倒事をスルーし、再び旅路へと戻っていった。


彼らが助けた一行が、実は“王妃と王女”、

そして相手が“王都で手を焼いていたA級盗賊団”だったと気づくのは、もう少し先のことになる。

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