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【第6話】古の神殿、目覚めの囁き

森の奥、陽も差さぬほど木々が生い茂る地に、静かに眠る構造物があった。


「……これが、神殿……?」


蔓草に覆われ、壁面の彫刻は風化していたが、確かに人工の建築だとわかる石造りの柱。

祈りの意匠、聖獣を模したレリーフが崩れかけたアーチに刻まれている。


「完全に忘れられてる……。でも、ここだけ空気が違う」


リュカは重い空気を払いながら、崩れた門をくぐった。


一歩踏み入れると、体の奥――魂の深部に、微かに“声”が届いた気がした。


(……召喚せよ……)


それは、鼓膜を震わせるものではない。

けれど、はっきりと意識に届いた囁きだった。


「お兄ちゃん……中、気をつけて。なにか……目覚めようとしてる」


エルミナが小声で囁く。

その肩越しに、アウラが魔力をまとわせて続く。


「いつでも雷、撃てるようにしとく。ヤバいの来たら言ってね」


「ありがとう、二人とも」


神殿内部は崩壊が進み、瓦礫や蔓が床を覆っていた。

けれど、中央へ進むほど、空間の魔力密度が濃くなっていく。


そして、魔物が現れた。


「来る!」


突如、天井を這っていた黒い影が降り注いだ。


木の根に似た触手を持つ魔獣。腐敗の残滓をまとい、瘴気を撒き散らしている。


「エルミナ、浄化! アウラ、上から包囲!」


「了解!」


「雷鎖展開――行くよっ!」


閃光が魔獣を貫き、聖光が瘴気を祓っていく。


狭い通路での連携戦闘は過酷だったが、三人の動きはすでに息が合っていた。


やがて神殿の最奥部。

聖域のような半円形の広間に、ひときわ巨大な魔法陣が刻まれていた。


(ここだ……)


そして、また――


(……我を……召喚せよ……)


意識に響く声が、今度は明確に形を持ち、リュカの魔力を吸い寄せ始める。


「っ……!」


全身を走る奔流のような魔力の渦。

足元の魔法陣が勝手に展開し、術式が勝手に組み上がる。


「リュカ!?」


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


叫ぶ声が遠くなる。

意識が、誰かに“繋がる”ような錯覚とともに、リュカの魔力が放たれた。


そして次の瞬間――


淡い翠光とともに、空間に“何か”が現れた。


「ふわぁ……ん……やっと、呼んでくれたんだね……♪」


木の葉がふわりと舞い、風がそよいだ。


そこにいたのは、長い緑の髪を風に揺らす女性。

足元まで届くワンピースの裾が、風と一体化するように揺れ、全身から柔らかな緑の魔力が滲み出ていた。


どこか夢見るような微笑み。

そして――


豊かすぎる胸元が、視線を否応なく奪う。


「え……?」


リュカが戸惑うより早く、彼女――ユノは目を細めて近づいてきた。


「あなたが……わたしの“運命の人”……♡」


そう言って、にゅるり、と彼女の背から伸びた細い枝がリュカの腕をするりと絡め――


「きゃっ――!?」


そのまま抱き寄せられるようにして、彼はふかふかの胸に包まれた。


「ちょっ……!? な、なんで拘束……!」


リュカは必死にもがいた。

だが、ユノの背から生えた枝はぬるりとしなやかに絡みつき、まるで絹糸のような柔らかさで、逆らえば逆らうほど深く抱きしめてくる。


「だって……ずっと待ってたんだよ……この神殿で、あなたが来てくれるのを」


ユノは、ゆったりとした声で囁きながら、リュカの頭を優しく胸に押し付けた。


その豊かな胸元が、まるで包み込むようにリュカの頬を挟み、否応なしに体温と香りが直撃する。


「うわっ、まって、これ、むり、苦しい……!」


「んふふ……我慢しなくていいんだよ? 甘えてくれて、いいの」


(甘えて、って……誰が!?)


リュカが半ば本気で窒息しかけたそのとき――


「お、お兄ちゃんっ!? なにしてるの、その人とっ!?」


「……っ! ちょ、エルミナ! これは違っ……!」


「むむ……また“新しい女”!? 今度は色気路線!? ずるいずるいずるいっ!」


「なにそれ……おっとり系・巨乳・包容力おばけ……設定被りゼロで攻めてきたじゃない!」


アウラとエルミナが怒涛の勢いで詰め寄るが、その瞬間――


「んふふ……ごめんね、ちょっとだけ静かにしててね」


ユノが指をひらひらと動かすと、彼女の周囲から風と共に小さな葉が舞い上がり――


ふわり、と二人の顔に貼りついた。


「きゃっ……なにこれ!? 視界が、葉っぱ!?」


「目隠し!? まさかの植物ギミックぅ!?」


枝による拘束、葉による目隠し。


自然の力を巧みに操る高位級聖獣ユノは、まるで優しく、けれど確信的にリュカを包囲していた。


「さぁ……あなたの“妻”として、しっかり癒やしてあげるね……♡」


「いやいやいや! 誰が妻!? 僕、何も言ってない!」


「うふふ……でももう、契約は完了してるよ?」


その言葉に、魔法陣の光が再び脈動し、リュカの魔力量がユノの存在と同調を始める。


(この感覚……確かに、契約が成立してる……!?)


そして、視界の奥に浮かんだ名前。


──《高位級聖獣・ユノ》

属性:植物・風・再生


(この力……まちがいなく、強い!)


エルミナとアウラの葉っぱを取り除きながら、リュカはようやく自由になり、ユノに向き直る。


「……と、とにかく。一緒に旅してもらえるのはありがたい。でも、“妻”ってのは一旦保留にさせてください!」


「はい、わかりましたぁ……(でも、心はもう決まってるから♡)」


癒やし系スマイルに、リュカは完全に押し切られていた。


「お兄ちゃん……わたし、ぜったい負けないからね……!」


「私も、ちゃんと恋愛モードでいくから! もぉー、覚悟してよねっ!」


かくして、森に眠る聖獣――ユノが仲間に加わり、


リュカと聖獣三体の旅が、正式に始まるのだった。

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