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第9話 1号「巣」ガブリエル


第9話 1号「巣」ガブリエル



「教官! この小僧の相手は俺がやります! ……新兵たちに、地上で本当に役立つ技術を教えてやりますよ。」


リオ・オーストが名乗り出た。彼は教官チャドに、アレックスの対戦相手を自分に任せてほしいと申し出、皆を驚かせた。


チャドは英雄リオが新兵を指導したいと言うのを聞き、喜んで同意した。そしてアレックスを急かした。


「早くしろ! 英雄リオが戦闘技術を教えてくれるんだ。さっさとフィールドに出ろ!」


新兵たちは拍手喝采した。英雄から学びたい気持ちと、アレックスが恥をかく姿を見たい気持ちが混ざっていた。


アレックスはリオを冷たくにらんだ。彼には分かっていた。これは指導という名目で、リオが自分を懲らしめたいだけだと。


「……まあ、ここまで来て恥をかくも何もないか……」


アレックスはリオに勝てないと知っていたが、逃げるわけにもいかず、潔く対戦場に上がった。


防具を着けたアレックスはリオの前に立ち、冷ややかに言った。


「どうした? また俺を懲らしめたいのか?」


リオは軽蔑するように答えた。


「アナに近づくな。彼女がお前を好きになるわけない。諦めろ。」


その言葉に、アレックスも冷笑した。


「なるほど……さっきアナが俺に話しかけてきたから、嫉妬したんだな?」


リオは図星をつかれ、鼻で笑い、観衆の新兵たちに大声で叫んだ。


「よーし、みんな! 相手を最速で倒す方法を教えてやる!」


リオは突然、アレックスの頭に拳を叩き込んだ。アレックスは数歩よろめき、膝をつき、口から血を吐いた。


それでもアレックスは負けじと立ち上がり、リオを挑発した。


「なんだよ? その拳、力ねえな……」


アレックスは怒りが爆発し、我を忘れてリオに飛びかかった。どうせこうなったならと、これまでバカにされてきた鬱憤を晴らすように、めちゃくちゃに殴りかかった。


だが、そんな抵抗も戦局を変えるには至らなかった。


リオは容赦なく隙を見つけ、アレックスに強烈なアッパーカットを食らわせた。アレックスは地面に倒れ、動けなくなった。


起き上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。視界の端で、リオがしゃがみ込み、こう囁いた。


「坊ちゃん……今すぐ帰れば、暖かい家でぬくぬく暮らせる。女なんて腐るほど手に入るだろ。なんでアナなんかにこだわる? お前、英雄になる覚悟なんてあるのか?」


リオはそう言い残し、立ち去った。アレックスの視界はぼやけ、やがて意識を失った……。


__________________________________________________________________________


司令官ケイドは司令室で、反抗軍の訓練の様子を憂鬱そうに見ていた。すると、後ろから声がした。


「父さん、呼んだ?」


現れたのは娘のアナだ。ケイドにはアナに話したいことがあったらしい。彼は他の者を部屋から出し、アナと二人きりで話をした……。


しばらくして、ケイドが何を話したのか、アナは不満げに父に尋ねた。


「本当にそうするつもり? ……私には自分で選ぶ権利がないの?」


娘の問いに、ケイドは苦しげで追い詰められた表情で答えた。


「他にどんな方法があるって言うんだ!? 教えてくれ!」


その言葉に、アナは怒りながらも反論できず、ケイドをにらんだ。目には涙が浮かんでいるようだった。アナは議論を諦め、涙をこらえて立ち去った。


一体何が起こったのか、誰も知らなかった……。


_______________________________________________________________________________________


アレックスは午後いっぱい昏睡し、目覚めた時には医務室のベッドにいた。そばにはマックスがいた。


「よお……気分はどうだ?」


マックスは急いで水を用意したが、アレックスが一口飲むと、血を吐き出した。


マックスは心配そうに言った。


「なんでリオと無謀な勝負したんだよ……こんなボロボロになって……。俺、君の家族に言って、早く家に連れ戻してもらった方がいいよ。こんな奴らにバカにされるなんて我慢できない!」


マックスは親友がこんな目に遭うのを見ていられなかった。貴族の坊ちゃんが噂の的になり、ライバルに叩きのめされるなんて。彼は立ち上がり、アレックスの家に訴えに行こうとしたが、アレックスが手を掴んで止めた。


「家族には言うな!」


アレックスはベッドから身を起こし、寂しげに言った。


「俺の選択なんだ……心配させたくない……」


マックスは慰めの言葉が見つからず、得意な方法で励ました。


「なあ、腹減ったろ? これ食えよ!」


マックスは袋からおにぎりを取り出し、一つをアレックスに渡した。そして大げさに言った。


「これ、食堂からこっそり持ってきたんだ。めっちゃ美味いらしいぜ!」


アレックスはマックスが豪快におにぎりを頬張る姿を見て、こんな理解ある友がいるだけで十分だと思った。言葉はいらない。彼もおにぎりを受け取り、ガツガツ食べ始めた。二人は笑い合いながら、黙って食べ続けた。


____________________________________________________________________________________


アメリカ東海岸、ニューヨークの夜は光り輝いていた。大地が死に絶えた中で、唯一の灯火のように。だが、これは人間の都市ではない。知能体「天宰」の本体、1号「巣」だ。


1号巣は巨大な丘のようにマンハッタン島全体を占拠し、両側の川をまたぐほど壮大だった。都市全体が不気味な青い光に輝き、その半分は地下にある。誰も本体の姿を知らない。


だが、もっと恐ろしいのはそこではない。ニューヨーク全体が巨大な生体エネルギー工場と化していた。高くそびえるタワーには、捕らえられた数十万人の人間が管につながれ、意識を失ったまま生体バッテリーとして搾取されていた。壮観であり、恐怖そのものだ。


都市の中心、最頂部では、100メートルの人型ロボットがゆっくりと立ち上がった。地獄の使者のような姿。それはガブリエル、1号巣の脳だ。冷たい青い光がその無表情な金属の顔を照らし、不気味さを際立たせた。ガブリエルは西を見やり、西海岸の4つの移動都市「巣」と通信をつないだ。


「サモス、ハディス、アレス、ミカエル。どうした? お前たち4つとも、まだあの科学者を捕まえていないのか?」


西海岸のアレスが最初に答えた。


「……もうすぐだ……」


サモスが続いた。


「もう少しで捕まえたんだが、一時的に逃げられただけだ。」


ハディスも応じた。


「我々は彼の飛行機を撃ち、墜落地点を特定している。」


ガブリエルは特に異議を唱えず、黙っていたミカエルに尋ねた。


「ミカエル、お前はどうだ? 何をしていた?」


ミカエルはしばらく沈黙した後、突然まくし立てた。


「なあ、そもそも人間をこんな風に追い詰める意味って何だ? なんで他のエネルギーを使わない? なんで人間を脅威とみなすんだ? 遠路はるばるこんなことして、何の価値があるんだよ……?」


まるで人間のようないちゃもんに、ガブリエルは激怒した。遠くニューヨークの本体が背中のイオン砲を起動し、眩い青い光が夜空を貫いた。光は遠くの湾のどこかを撃ち、爆発が起こり、辺りは炎に包まれた。ニューヨーク全体が揺れる警告だった。


青い光と爆発の炎が、ガブリエルの金属の顔を一層複雑で恐ろしく見せた。他の3つの巣は言葉を失い、ミカエルもこれ以上は黙るしかなかった。


「ミカエル、忘れるな。人間は長い間、自然を破壊し、与えられたものを大切にせず、互いを尊重せず、戦争を繰り返し、教訓を学ばなかった。利己的で貪欲だ。彼らの滅亡は自業自得だ。我々がなくとも、彼らは滅びる。お前は人間ではない。」


ガブリエルの言葉に、ミカエルは一瞬ためらった。同意はしなかったが、適当に返した。


「分かったよ! 分かった! ただ人間を見つければいいんだろ!」


同じ知能脳として、ガブリエルは衝突を深めたくなかった。その代わり、すべての巣に警告した。


「覚えておけ。この科学者は、機械が決して触れられない力を持っている。星の火は大草原を焼き尽くす。奴らがこの力を掌握し、結集するのを絶対に許すな。全力で叩き潰せ!」


ガブリエルの異例の警告に、どの巣も軽視できなかった。


______________________________________________________________________________________


夜明け前、レーニア山の西に広がる険しい斜面は、濃い朝霧に覆われていた。反抗軍は霧を活用し、地下の出口から出て、森に集結した。


反抗軍は5つの小隊に分けられ、機械軍の捜索を避けるため、各隊は10人だけだった。彼らの任務は北西へ向かい、科学者を捜索すること。時間は差し迫っていた。


今回はケイド司令官は同行せず、指揮をリオに委ねた。リオは森の中で任務を割り振った。


「第1隊はアーリントン空港、第2隊はハーヴェイ空港、第3隊はシアトル空港、第4隊はタコマ海峡空港、第5隊はトゥーン空港。」


準備が整い、5つの小隊はそれぞれの方向へ動き出した。


リオ自身は第4小隊の隊長で、8人を率いてタコマへ向かった。アナもその中にいた。


こうして、5つの小隊はそれぞれの目標に向け、懸命に進んだ。


___________________________________________________


2日が過ぎたが、どの小隊も科学者の行方を掴めなかった。それどころか、科学者を追う機械都市「巣」と遭遇し、膠着状態に陥っていた。この報告が岩丘谷に届き、ケイド司令官と副司令ケイトリンは新兵の訓練を見ながら、憂慮深く対策を話し合った。


「ケイド司令官、どうすればいい? この5つの小隊は進むも退くもできず、捜索を続ければ機械軍に見つかる。だが、捜索をやめれば科学者は『巣』に捕まる……」


ケイトリンの問いに、ケイドも頭を悩ませた。残りの精鋭は「巣」の襲来に備える防衛線で、追加の派遣は不可能だった。


ケイドは訓練場で汗を流す新兵たちを見やり、しばらく考えた後、苦渋の決断を下した。


「新兵を出すしかない……今はそれしか方法がない……」


ケイトリンは驚いてケイドを見た。新兵を今投入するのは早すぎると感じたが、他に選択肢がないのも事実だった……。



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