第6話 反抗軍への加入
第6話 反抗軍への加入
「……ねえ、一人で何やってるの?」
少女アナは高慢な態度で顎を上げ、少年リオに近づいてきた。そして彼の返事を待った。
「射撃の練習だよ……君、アナ・レインだろ?」
少年リオは女の子と話すのが苦手で、どもりながら、12歳の少女とはいえアナの顔をまともに見られなかった。
「そうよ、なにか文句?」
美少女のアナはイラついたように答えながら、別の射的台に歩み寄り、射撃の準備を始めた。そして再びリオに尋ねた。
「どのくらい正確に撃てるの?」
そんな質問をされると、リオはどんなにシャイでも男の子だ。こんな可愛い子を前に、つい見せびらかしたくなり、銃を構えて一気に撃ち始めた。
リオは10発撃ち、すべて的の中心近くに命中した。驚くべき腕前だ。
銃を下ろしたリオは自信満々にアナを見て言った。
「見たろ? 教えてやろうか……」
だが、振り返った瞬間、アナはすでに銃を構え、的を狙っていた。
12歳のアナは、年齢を超越した集中力で、雷鳴のような速さで10発を連射。どの弾も寸分違わず中心に命中した。髪をなびかせながら撃つ姿は、今でもリオの記憶に鮮明に残っている。
特に、彼女が銃を置いて冷たく言い放った言葉。
「自分勝手な男は嫌い。」
この出来事は、リオにとって忘れられないものだった。
「自分勝手、か……ふん!」
リオは苦笑いを浮かべながら立ち去った……。
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反抗軍キャンプ前の募集会場には、続々と若者が集まっていた。リオのファンガールやアナに近づきたい男子が大半だったが、新たな血が集まるならそれでも構わなかった。
「次!」
募集係が一人目の登録を終えた時、次の志願者が机を叩き、派手に自己紹介した。
「俺――参――加!」
こんな目立つ振る舞いをするのは、アレックス以外にいなかった。
岩丘谷のほとんどの工場を所有する家柄の息子が反抗軍に志願するなんて、当然、会場は騒然となった。そして、その噂はアナの耳にも届いた。
アナはアレックスが志願したと聞き、彼の前にやってきて意味深な笑みを浮かべた。
「ホーク家の坊ちゃん、よく考えてね。反抗軍は地上で恐ろしい機械獣と戦うんだよ……本当にやれる?」
美人に挑まれたら、アレックスが引くはずがない。彼は両腕を広げ、自信たっぷりに答えた。
「見てろよ! 俺だって英雄になって、君に認めさせてやる!」
アナはそんなアレックスの言葉に心の中で思った。
「なんて図々しい奴……」
アナは呆れつつもクスッと笑い、冷たく一言。
「ふーん、楽しみに待ってるわ。」
アナは高慢に立ち去ったが、実はこっそり振り返ってアレックスを見やった。
少なくとも、アレックスは彼女の注意を引くことに成功したのだ。
だが、この話は結局、アレックスの父親ブライアン・ホークの耳にも入った。
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「何!? 反抗軍に入るだと? 絶対ダメだ!」
岩丘谷の中腹にあるホーク家の豪華な邸宅に、驚きの声が響いた。ホーク家の当主ブライアンが、息子が危険な反抗軍に入ろうとしていると聞いての反応だ。
ブライアンは唯一の息子が命を危険に晒す選択をするなんて受け入れられなかった。
「本気で何考えてるんだ、アレックス・ホーク!」
父親ブライアンだけでなく、その場にいた親戚たちも口々に反対し、説得を試みた。だが、アレックスはそんな言葉をまるで聞かず、楽しそうにバックパックを詰め、反抗軍キャンプに住み込む準備をしていた。
「分かってる、分かってるよ……でも、アナを君の嫁にしたら最高だろ? そのくらいのリスク、なんでもないさ! アナをゲットしたらすぐ帰ってくるから、安心してよ!」
アレックスは父親の肩を叩き、説得しようとした。唯一賛成していた母親カミラまでが横から口を挟んだ。
「そうよ、ダーリン! アナみたいな子が嫁に来たら、どんなに素敵かしら!」
息子と妻のダブル攻撃に、ブライアンは折れるしかなかった。彼は厳格な父親ではなかったのだ。ブライアンはアレックスを無人のバルコニーに呼び、諭すように言った。
「なあ、息子。お前がどんな責任を背負ってるか、分かってるか?」
父親の真剣な問いに、アレックスは面倒くさそうに答えた。
「分かってるよ。家業を継ぐことだろ……」
ブライアンは答えず、バルコニーから見下ろす岩丘谷の住民たちを指さした。
「見てみろ。なぜ皆がここで自由に暮らせてると思う? 何のおかげだ?」
アレックスは不思議そうに尋ねた。
「父さんの工場が仕事を与えてるから……じゃないの?」
ブライアンは小さく笑って言った。
「それもある……だが、それだけじゃない。本当の理由は『守ること』だ。誰も守ってくれなきゃ、俺たちもこんな平穏な暮らしはできない。守るってのは責任だ。反抗軍に行くにしても、将来大ボスになるにしても、ただ自分の欲望を満たすだけじゃダメだ。息子……そのことを学んでくれ。」
ブライアンはアレックスの肩を叩き、屋内に戻った。だが、今のアレックスにはそんな言葉は響かなかった。彼はただ反抗軍キャンプの方を見つめ、アナのことを考えていた。
「リオみたいな英雄になれば……君は俺を認めてくれるよね、アナ?」
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翌朝、岩丘谷の住民がまだ寝静まる中、反抗軍キャンプでは新兵集合の笛が鳴り響いた。
「新兵、集合!」
がっしりした小柄な男が広場の前に立ち、新兵たちを呼び集めた。約200人の新兵が荷物を手に整列すると、男は行ったり来たりしながら一人一人をじっくり観察した。まるで全員を見透かすかのように。
一通り見回した後、男は前に立って話し始めた。
「みなさん、ようこそ。私は教官のチャドだ。反抗軍が機械軍と戦うことについて、どれだけ理解してるか知らないが、はっきり言っておく。地上に出るたび、必ず何人かは帰ってこない。」
新兵のほとんどは若者だった。この言葉に、動揺する者もいた。チャドはその反応をすべて見ていた。彼は続けた。
「今、チャンスをやる。辞めたい奴は……今すぐ出て行け。」
驚くことに、チャドの言葉が終わると、何人もが荷物を持って去り始めた。アナやリオに憧れて来た若者が多く、チャドが欲しないタイプだった。
高い信念がなければ、偉大なこと——犠牲さえも——成し遂げるのは難しい。
チャドは冷たく去っていく者たちを見ても驚かなかった。だが、一人、微動だにせず立っている人物に目が留まり、興味を引かれて近づいた。
「ホーク家の坊ちゃん……なんでまだここにいるんだ?」
そう、そこに立っていたのはアレックス——岩丘谷のほとんどの工場を継ぐ男だった。