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第51話 五つの印


第51話 五つの印



「もし……雷を俺の力にできたら?」


この瞬間、アレックスの脳裏に狂気じみた閃きが走った。素早く仏印を結び、両手の煙と塵の気が洪水の如く空へ噴出し、暗雲を貫く銀灰の気柱を形成。まるで避雷針のようだった。


「来い!」


アレックスは歯を食いしばり、息を止めて待った。


雷鳴が轟き、耳をつんざく雷霆が落ちた。稲妻が気柱を直撃し、雷光が万馬の如く奔ったが、気で捉えた雷胞はわずかで、瞬時に消えた。


「くそ! 雷を留められない……仏印が間違ってるのか?」


アレックスは息を荒げ、額に冷や汗を流した。焦りが募る中、「巣」の足音が近づき、残された時間は少なかった。


「別の手印で、もう一度!」


低く唸り、両手を素早く降魔印に変えた。煙と塵の気旋が安定し、雷を捉えるのに適した形に整った。


再び雷霆が落ち、気旋を直撃。雷光が龍蛇の如く舞い、前の試みより多くの雷胞を捉えた!


「頑張れ……」


アレックスは祈るように呟き、目に渇望の光を宿した。だが、雷光は気流に長く留まらず、またも消えた。


「もう一度、別の手印で!」


再挑戦を決めた瞬間、「巣」の轟音が割り込んだ。


「人間、もうチャンスはやらん。」


「巣」の声は終末の審判の如く響いた。


「次の一撃で、お前と希望を共に砕く!」


アレックスが顔を上げると、瞳が縮んだ。「巣」が両ハサミを掲げ、金属の歯車が鳴り、巨大なドリルに変形。冷たく光る鋼が輝いた。


「巣」の底部から四基の巨大バーナーが伸び、青い管路が赤熱に変わり、機体は動く火山と化した。燃料が電力に代わり、バーナーに注がれ、猛烈な炎の奔流を放った。


バーナーの起動で大地が震え、廃墟の土煙が衝撃波で舞い、砂嵐が世界を呑んだ。アレックスはまずいと悟り、気柱を急いで空に伸ばし、雷を呼び寄せようとした。


「早く……頼む!」


冷や汗を流し、両手を握り、気旋を雲に突き刺した。だが、雷は来ず、心は重くなった。


その瞬間、「巣」のバーナーが轟き、四筋の赤い炎が噴出し、巨体が山の如く浮上。空を覆い、光を奪った。


「轟!」


「巣」は空中で回転し、巨大な影を落とした。掲げたドリルは隕石の如く、滅地の勢いでアレックスに迫った!


「くそ!」


アレックスは目を瞠り、体が震えた。雷の吸収は未完で、回避は不可能。考える暇なく、不動根本印を結び、煙と塵が厚い気団に凝集。迫るドリルに立ち向かった。


「轟隆——!」


ドリルが気団に激突し、エネルギー衝撃が四方を揺らし、廃墟のビルが紙の如く砕け、アレックスの足元のビルが崩れ、瓦礫に沈んだ。


「うあ——!」


アレックスは歯を食いしばり、足を踏ん張った。体が圧迫で曲がり、気が狂ったように流れ、推進圧に抗ったが、深淵のような力に意志が呑まれそうだった。


「ダメだ……倒れるわけにはいかない!」


内心で叫び、震える手で気団を支えたが、「巣」の圧は人間の限界を超え、息もできなかった。


瓦礫が飛び、鉄筋が折れ、気団が薄れ、両脚は瓦礫に埋まり、骨が軋んだ。


「もう……ダメか……」


アレックスは頭を下げ、力が抜けた。気団はドリルに裂かれ、膝は瓦礫に沈み、息が乱れた。


その時、左手の知能腕時計が圧に耐えきれず、「パキッ」と外れ、足元に落ちた。ひび割れた表面が曇天を映し、剥き出しの金属部品が終焉を告げた。


アレックスは時計を呆然と見つめ、記憶が洪水の如く蘇った。


岩丘谷の笑顔、犠牲となった両親、身を挺したマイクス、厳しくも愛あるチャド、第6小隊の仲間、去ったアナ、そばにいるマギー、そして優しく導いたレイの声。


「この力を無駄にしないで……絶境でも道は生まれる。」


記憶は炎となり、胸を燃やした。涙が滲んだが、絶望ではなく、不屈の決意だった。


「俺は……諦めない! 皆を裏切れない!」


歯を食いしばり、ゆっくり立ち上がった。


ドリルは気団を圧し、、「巣」のバーナーが雷鳴の如く轟き、灼熱の気流が満ちた。アレックスはドリルを支えつつ、円真大師の手印の教えを振り返った。


足元の壊れた時計の露出した抵抗器を見て、閃きが走った。


「電流は抵抗で制御される……なら、仏印を連鎖させたら?」


時計を凝視し、発想が明確になった。電流は抵抗で調整され安定する。気の流れも同様に制御できるのではないか? 異なる仏印を回路の部品の如く連鎖させ、安定した「気流回路」を作れば、雷を捉えられるのではないか?


アレックスは心を静め、目を閉じた。仏印の組み合わせが走馬灯の如く脳裏を駆けた。体は沈み、ドリルの圧で地底が崩れ、煙と塵と瓦礫に埋もれた。だが、闇の中で心は澄み切っていた。


高空の「巣」の脳、アレスはドリルを操り、傲慢に叫んだ。


「終わりだ! 無駄な足掻きだ、人工知能に敵うものか!」


ドリルが加速し、アレックスを地底数十メートルに押し込み、轟音が終焉を告げた。


だが、「巣」は誤った。


塵の中で、アレックスは生きていた。目を開き、苦痛と犠牲が力に変わった。マギーの支え、レイの教え、犠牲の仲間を思い、低く呟いた。


「分かった……」


深呼吸し、両手を稳やかに合わせ、最初の印を結んだ。


「第一の印、降魔印! 雷を招き、電を引く!」


降魔印が成り、空が沸騰。雲海で雷霆が轟き、数十の稲妻が地底に落ち、アレックスの体に注いだ。周囲は輝き、雷が怒龍の如く旋り、彼を包んだ。


高空のアレスは一瞬驚き、冷笑した。


「無駄な抵抗だ!」


ドリルが力を増したが、推進速度は鈍った。


「第二の印、智慧印! 電を蓄える!」


アレックスが低く叫ぶと、智慧印が成り、雷が煙と塵に包まれ、瞬く雷胞が銀蛇の如く舞った。雷胞は網を織り、ドリルの進撃を堅牢に防いだ。


両手が流水の如く変わり、次の印を結んだ。


「第三の印、蓮花印! 電流を融合!」


蓮花印が成り、気流と雷胞が暴風をなし、雷の蓮が咲き、ドリルを押し返した。力の強さにアレスは驚愕した。


「第四の印、大日如来印! 電流を増幅!」


低く力強い声が雷鳴と響き合った。


大日如来印が成り、雷が交錯し、巨大な雷電金剛が現れ、天地を震撼させた。雷霆の洪流が拡散し、「巣」の金属殻が電弧で変形、溶け始めた。


「くそ! この力を完成させるものか!」


アレスの声に初めて恐怖が滲んだ。加速を試みたが、近づけなかった。


アレックスの心は超然としていた。穏やかに微笑み、力強い声で言った。


「第五の印、施無畏印! 電を光に変え……俺の無畏を象徴する!」


最後の印が成り、雷霆が融合し、光が爆発。天地が静まり、次の瞬間、雷の海嘯が空に迸り、「巣」とドリルを弾き飛ばした。


「いや! ありえない!」


アレスの怒号が響く中、雷電の巨仏が天地に聳え、雷霆の化身の如く輝き、空を照らした。


「最後の一撃……かかってこい!」



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