第43話 手印
第43話 手印
「師匠に会ったら……どうか……手加減してね……」
ライアンの言葉にアレックスは首を傾げ、内心思った。
「師匠が……何かするってこと?」
ライアンはアレックスとマギーを地下50メートルの雷蔵寺避難所に案内した。薄暗い広大な空間は無数の蝋燭で照らされ、聖なる静けさが漂う。中央では60歳ほどの老人が大仏を前に座禅を組み、経を唱えていた。
「師匠、信じられないよ! わざわざ来た人がいるんだ!」
ライアンが興奮して報告し、アレックスたちに紹介した。
「これが俺の師匠、円真大師だ!」
老僧――円真は雷蔵寺の師匠だった。円真は突然経を止め、反応しなかった。
3人が不思議に思っていると、円真が突然跳び上がり、バックフリップを決め、アレックスに掌を放った。アレックスは本能で煙と塵の気を凝集し、掌を防いだ。
円真は攻撃が防がれると即座に蹴りを繰り出し、アレックスも素早く気の拳で対抗し、円真を押し返した。
アレックスとマギーは驚愕した。老人とは思えない身のこなしと武術の技量だった。
円真は元の位置に戻り、手を合わせて礼を述べた。
「阿弥陀仏、若者、驚くべき力だ……私の骨がバラバラになりそうだ!」
円真は冗談めかして足を叩き、ユーモラスな雰囲気を漂わせた。
アレックスは円真の実力を見て期待を込め、尋ねた。
「大師、嘉央博士をご存知ですか?」
アレックスが来意を説明すると、円真は二人を地上の寺に戻し、答えながら歩いた。
「嘉央博士は知っているよ。知能機械が地上を支配する前、彼はよく来て、私の拳法を見て楽しんでいた。特に気功と武術を融合させたらどうなるかと話していた……まさか本当に実現するとは! 彼は本当に賢い!」
円真は二人を本堂に案内した。堂内には大小数百の仏像が並び、さまざまな手振りをしていた。その威厳にアレックスとマギーは驚いた。
円真は仏像を一つずつ紹介しようとしたが、アレックスが遮った。
「すみません、大師。博士が気の力を最大限に発揮する方法を話していませんでしたか?」
円真は無垢な目で答えた。
「……いや、ないね……」
アレックスは諦めず食い下がった。
「もう一度思い出してください! 何か見落としてませんか!?」
円真は困惑して言った。
「申し訳ない……博士はそんな話はせず、知能機械を避けて長い間来ていないんだ……」
アレックスはさらに尋ねようとしたが、時間がなかった。
マギーが叫んだ。
「外に大量のドローンが飛んでる……!」
8号「アレス」の放ったドローンが彼らを追跡し、雷蔵寺を突き止めた。数百のドローンが寺を銃撃し、混乱が広がった。
「見つかった!」
アレックスは寺を飛び出し、気でドローンを操り、互いに衝突させて破壊。増援が来る前に全滅させたかった。
努力の末、ドローンは全て墜落したが、遠くから巨大な汽笛の低鳴が響き、アレックスの心が冷えた。
「間に合わない、来るぞ!」
寺に戻り、悪い知らせを伝えた。円真はいつもの調子で言った。
「阿弥陀仏……来るべきものは避けられない。」
危機迫る中、アレックスは再び円真に迫った。
「大師、本当に気の力を最大化する方法を知らないんですか!? 頼む、教えてくれ!」
円真は肩をすくめ、仏像を見て言った。
「本当に知らないんだ……今は神に祈るしかないな、はぁ……」
遠くまで来て答えを得られず、アレックスは失望し、座り込んだ。マギーは彼を慰めに抱きしめた。
「大丈夫……他に気の力を引き出す方法があるよ。まずここから逃げよう!」
マギーの言葉に、アレックスも今は逃げるしかないと納得した。
無言で立ち上がり、巨大な仏像の前に跪き、呟いた。
「神なんかいるとは思わないけど……もし本当にいるなら、俺たちを守ってくれ!」
期待せず、東洋風に三度頭を下げ、仏像を見上げた。
「はぁ……」
仏像を眺めながら、突然気づいた。仏像はそれぞれ異なる手振りをしていた。
「この仏像の手の動きは何だ?」
円真に尋ねると、失望していた円真が再び饒舌に語り始めた。
「おお、これは手印だ。世の真理を表す印で、例えばこれは施無畏印……」
円真の説明中、アレックスの頭に大胆なアイデアが閃いた。
「円真大師! この手印を最速で教えてください!」
アレックスは決然と円真を見つめ、円真は戸惑いつつ、真剣に手印を教え始めた。
マギーが不思議そうに尋ねた。
「なんで手印を学ぶの……? それが答え!?」
アレックスは手印を学びながら答えた。
「分からない……でも、すぐ確かめられる!」
シアトルの東では、7号「アレス」がタイタンの巨虫のように山脈を越え、全速で向かっていた。アレックスがそこにいるとの情報を受けていた。
アレスは機械人形態で「巣」の頂点に立ち、シアトルを遠望。目的は一つ――アレックスを殺すこと。
「哀れな人類、最後の希望を私が潰す。アレックス、お前は死んだ!」
時間が刻々と過ぎ、アレックスは必死で手印を学んだ。手印が気の鍵かどうかは分からないが、もはや後がない。
人類の未来を懸けた決戦が迫っていた……




